どんな物語にも、登場人物の数だけ別の視点が存在する。
私たちが普段よく見ているドラマや映画もそうだ。
語られるのは主人公を取り巻く“サイドA”だけだが、その裏側では永遠に日の目を見ることがない“サイドB”や“サイドC”が存在している。
例えるなら、いじわるな魔法使いからお姫様を救う王子様の物語があったとして、それはいつも王子様の視点から描かれ、美談となる。
なぜならその王子様の目には、いじわるな魔女と嘆くお姫様の顔という“たった二つの事実”しか映っていないから。
お姫様がなぜ嘆いているかなんて王子様の物語には重要ではなく、お姫様は王子様の物語において発言権はない。
たとえお姫様が自ら魔女の犠牲になること望んでいて、それを阻止されたことに嘆いていたとしても。
それをお姫様が自ら口にしなければ、王子様がその事実を知ることは永遠にない。
だけど、皮肉なことにハッピーエンドはいつもそうやって成り立っている。
◆◇◆◇
私の物語は空人君が知っている物語とは少し違う。
「それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」
シイナさんがそう言った瞬間、空人君が光に包まれ“二周目”に送られた。
私がそれに気づいたのは、その数秒後だった。
光の眩しさに目を瞑り、自分も送られたかと思ったが何かが変わった様子はなく、目を開けるとそこはまだあの白い空間で、私とシイナさんだけが残されていた。
「なぜ私は?と思っているでしょう。
ご安心ください。
冬野さんもしっかり二周目にお届け致します」
私の心を読んでいるかのように、シイナさんは私が聞きたいことの答えを先に言った。
「ですが、あなたにはどうしても伝えなければいけないことがあるので、そのために少し残ってもらいました」
どうやら私にとっては、ここからの話が本題らしい。
シイナさんの真剣なまなざしがそう物語っていた。
わざわざ私だけを残して話すのだから、きっと空人君に知られてはいけないのだろう。
「・・何ですか。伝えたい事って」
聞きたい気持ちと、聞かない方が良いと告げる本能の間で、私の感情は少し荒ぶった。
「不信感を覚えるのはわかります。
ですが、どうしてもあなたには必要な話なのです。
どうか今からする話を最後まで聞いたうえで、二周目において冷静な判断をしていただきたい」
「・・・わかりました。
続けてください」
意識しているのかは分からないけど、もったいぶるようなシイナさんの前置きに、私は息をのんだ。
「ご理解感謝致します。
では、どこから話しましょう。
・・・そうですね。
本来、このやり直しは一人で行うものなのです」
シイナさんは話す内容を少し頭の中でまとめた後、分かり易く前提から話してくれた。
そうなんだ。
そうやって言うってことは、つまり“そういうこと”なんだよね。
「・・・つまり、二人いると何か不都合があるってことですか?」
私が先を読んだ質問をすると、シイナさんは少し口角を上げて、
「さすが冬野さん。
小説が好きなだけあって話の展開を読むのがお得意なようですね」
と言った。
「そもそも将来にそんな可能性を秘めた人なんて、全人口との比率で言ったら“ほんのひとつまみ”なのです。
だから、何かが原因で死んだ人がここにたどり着く時はいつも一人でした。
ですが、それはこの空間にもしっかり法則が存在するが故の結果なのです。
まず、同じような空間はいくつも存在していて、世界中でいろんな人が別々の空間にたどり着くようになっています。
今こうしている間にも、別の空間で別の局員が別の人に“やり直し”の説明をしているでしょう」
「じゃあ、なぜ私たちは二人同時に同じ空間にたどり着いたんですか?」
私は話を途中で遮るように質問した。
「・・それもこの法則に則った結果なのです」
シイナさんはやり切れないような表情をして続けた。
私たちが普段よく見ているドラマや映画もそうだ。
語られるのは主人公を取り巻く“サイドA”だけだが、その裏側では永遠に日の目を見ることがない“サイドB”や“サイドC”が存在している。
例えるなら、いじわるな魔法使いからお姫様を救う王子様の物語があったとして、それはいつも王子様の視点から描かれ、美談となる。
なぜならその王子様の目には、いじわるな魔女と嘆くお姫様の顔という“たった二つの事実”しか映っていないから。
お姫様がなぜ嘆いているかなんて王子様の物語には重要ではなく、お姫様は王子様の物語において発言権はない。
たとえお姫様が自ら魔女の犠牲になること望んでいて、それを阻止されたことに嘆いていたとしても。
それをお姫様が自ら口にしなければ、王子様がその事実を知ることは永遠にない。
だけど、皮肉なことにハッピーエンドはいつもそうやって成り立っている。
◆◇◆◇
私の物語は空人君が知っている物語とは少し違う。
「それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」
シイナさんがそう言った瞬間、空人君が光に包まれ“二周目”に送られた。
私がそれに気づいたのは、その数秒後だった。
光の眩しさに目を瞑り、自分も送られたかと思ったが何かが変わった様子はなく、目を開けるとそこはまだあの白い空間で、私とシイナさんだけが残されていた。
「なぜ私は?と思っているでしょう。
ご安心ください。
冬野さんもしっかり二周目にお届け致します」
私の心を読んでいるかのように、シイナさんは私が聞きたいことの答えを先に言った。
「ですが、あなたにはどうしても伝えなければいけないことがあるので、そのために少し残ってもらいました」
どうやら私にとっては、ここからの話が本題らしい。
シイナさんの真剣なまなざしがそう物語っていた。
わざわざ私だけを残して話すのだから、きっと空人君に知られてはいけないのだろう。
「・・何ですか。伝えたい事って」
聞きたい気持ちと、聞かない方が良いと告げる本能の間で、私の感情は少し荒ぶった。
「不信感を覚えるのはわかります。
ですが、どうしてもあなたには必要な話なのです。
どうか今からする話を最後まで聞いたうえで、二周目において冷静な判断をしていただきたい」
「・・・わかりました。
続けてください」
意識しているのかは分からないけど、もったいぶるようなシイナさんの前置きに、私は息をのんだ。
「ご理解感謝致します。
では、どこから話しましょう。
・・・そうですね。
本来、このやり直しは一人で行うものなのです」
シイナさんは話す内容を少し頭の中でまとめた後、分かり易く前提から話してくれた。
そうなんだ。
そうやって言うってことは、つまり“そういうこと”なんだよね。
「・・・つまり、二人いると何か不都合があるってことですか?」
私が先を読んだ質問をすると、シイナさんは少し口角を上げて、
「さすが冬野さん。
小説が好きなだけあって話の展開を読むのがお得意なようですね」
と言った。
「そもそも将来にそんな可能性を秘めた人なんて、全人口との比率で言ったら“ほんのひとつまみ”なのです。
だから、何かが原因で死んだ人がここにたどり着く時はいつも一人でした。
ですが、それはこの空間にもしっかり法則が存在するが故の結果なのです。
まず、同じような空間はいくつも存在していて、世界中でいろんな人が別々の空間にたどり着くようになっています。
今こうしている間にも、別の空間で別の局員が別の人に“やり直し”の説明をしているでしょう」
「じゃあ、なぜ私たちは二人同時に同じ空間にたどり着いたんですか?」
私は話を途中で遮るように質問した。
「・・それもこの法則に則った結果なのです」
シイナさんはやり切れないような表情をして続けた。