「舜あのさ、」
「ん?てか、今日すげー晴れてんな。買い物にでも出掛ける?」
「ううん。今日は話したいことがあって来たから」
「……それ、今聞かなきゃいけない話?」
「うん。舜は勘がいいからもう気づいてるかもしれないけど、」
ああ、いいよ。嫌になるくらい。
いつもより少しだけ鼻声なことも、何度も瞬きをする仕草にも気づいてる。
そして、何か覚悟を決めている真っ直ぐなその瞳にも。
「私もう舜とは一緒にいられない。……別れたい」
ほら、やっぱり良い話なんかじゃなかった。
「どうして?もしかして最近、会えなかったのが原因、俺のせい?」
「違う、私がしんどくなっちゃったの。不安とか寂しさとか、そういう感情を持ち続けることに」
それって結局、俺のせいじゃん。
だけど、心春は絶対にそうだとは言わない。
彼女が人を責めているところを、俺は一度だって見たことがないからだ。
「気づかなくてごめん。その決断は俺が頑張ることで覆る?」
その言葉に彼女は黙り込む。
きっと、それが答えだ。
今までの埋め合わをすれば彼女の気持ちが戻ってくる。そんな単純な話ではない。
わかってはいたけれど、確認せずにはいられなかった。
絞り出したような声で「ごめんね」と言う彼女に、今度は俺のほうが黙り込んだ。
それからどのくらい時間が経ったのだろうか。
雲一つなかった空が嘘のように暗くなり、大粒の雨を降らせた。
晴れだって言ってたのに。そんなことを思いながら窓の外を見ると、同じように彼女も外を眺めていた。
そういえば、友達だった頃から何一つ意見が合わない俺達だったけど、雨が嫌いなのは一緒だったな。
そんなことを今の今まですっかり忘れていた。
どんなに雨が降っていようと、彼女は嫌な顔一つせず俺に会いに来てくれていたからだ。
心春の優しさに甘えきっていた俺が、彼女のためにできることはもう一つだけなのかもしれない。
そう考えると彼女への答えは簡単に導き出された。
「……別れようか俺達」
本当はこんな言葉を口に出したくはない。雨の音にかき消されたらいいのになんて思うよ。
だけど、彼女を楽にしてあげられる方法はきっとこれしかないんだよな。
俺の言葉に彼女は小さく鼻をすすった。
「じゃあ、私そろそろ行くね」
別れを決めてからたった十分。
帰ろうとする心春に「せめて雨が止むまでいれば?」と言ってみるも、彼女が頷くことはなかった。
「傘持ってないよな。これ使って」
彼女が傘を持っていないことに気づき、一番綺麗なビニール傘を差し出す。
しかし、彼女はそれを受け取ろうとはしない。
「でも、」
……そうか、もう俺達が会うことはないんだよな。
「大丈夫、返さなくていいから」
その言葉の後、ようやく彼女は傘を受け取る。
そして、最後に「今までありがとう。ばいばい」という言葉を残して、彼女は俺の元を去って行った。