◆Side:舜◆
今朝、お天気アプリをチェックするとそこには太陽のマークがひとつ。隣に表示されていた降水確率は0%で「今日は一日晴天。洗濯物◎」と書かれていた。
その言葉を信じて朝から洗濯機を回し、タオルも服も全部ベランダに干した。
それなのに外は土砂降りの雨。
どこを探しても太陽なんて見当たらない。
もう一回、洗わないといけなくなったとか、その前に取り込むのが先だとか。
頭の中は至って冷静なのに、体は鉛のように重く動かない。
こんなことになるなら、洗濯物なんか溜めておけば良かった。
だけれど、今日は目覚めてからずっと体を動かしておかないと、どうにかなりそうだったんだ。
「……結局、言えずに終わったな」
クローゼットを見ながら口にしたその言葉は、一人なった部屋に虚しく響く。
目的が違うとこんなにも体は簡単に動くんだなと思いながら、俺は目の前の扉を開いた。
そして、奥にしまわれていた箱をそっと手に取る。中には新品のスニーカー。
それは初めて彼女と購入したお揃いのものだった。
色、形、デザイン。自分の好みど真ん中。
それなのに履いて出掛けたことは一度もない。
でも、ずっと大切にしていたんだ。
俺はそのことを最後まで彼女に伝えられなかった。
*
一時間前、四年間交際していた彼女から別れを切り出された。
今日、会いたいと言ってきたのは彼女のほう。
俺はなんだか悪い予感がして、朝から落ち着かなかった。
曖昧なことを言わない彼女が何度も「会って話したいことがある。」それだけをメッセージに送ってきていたからだ。
いつもならそこには必ず用件が添えられてある。
言いにくいことなのか、それとも会って話さないといけないことなのか。
どちらにせよ、良い話ではないのだろう。
現に彼女は今日、一度も笑顔を見せていないのだから。