◇Side:心春◇
今朝、ニュース内でお天気コーナーを務める女性はこう言った。
「今日は一日晴天が続き、洗濯日和になるでしょう」と。
それなのに私は今、一人土砂降りの雨の中を歩いている。
突然の雨に店先で雨宿りをするカップル、諦めて鞄を雨避けにして走るサラリーマン。留まる人と急ぐ人。
私がそのどちらにも当てはまらないのは「返さなくていいから」と言って渡された傘があるからだ。
しかし、それ一本で頭からつま先までを完璧に守れるわけではない。
履き古したスニーカーは簡単に雨水の侵入を許し、あっという間に靴下、そして足までをも濡らした。
まるで重りのようになったそれは一年前、彼とお揃いで購入したもの。
「……結局、言えずに終わっちゃったな」
色、形、デザイン。改めて見てみても、やっぱり私の好みとは程遠い。
それでも購入を決めたのは、彼と同じものを身に着けたかったから。
私はそのことを最後まで彼に伝えられなかった。
*
「私、舜のことが好きなの。だから、その……今、彼女がいないなら私なんてどうですか?まずはお試しからでもいいので!」
高二の春、それまでずっと友達として過ごしてきた彼に想いを告げた。
常に彼女が途切れない彼と、恋愛経験なんて一度もなかった私。
あまりにも不格好な告白を彼は笑って受け入れてくれた。
「付き合うなら本気で付き合おうよ。俺、心春のこといいなと思ってるから」そう言って。
それから手を繋ぐまでに二日。キスをするまでに一週間。いいなと思ってるが「好き」に変わったのは二ヶ月後。
どうせすぐ別れるだろう。そんな風に言われていた私達の関係は、高校を卒業して別々の大学に進学してからも変わらず続いていた。
だけれど、二人の間には徐々に溝ができ始める。
「舜って来週の土曜日バイト休みだったよね。泊まりに行ってもいい?」
「ごめん。その日は三橋先輩に誘われてるから」
「次の週は?」
「あー、その日も三橋先輩と……」
「そっか。じゃあ、また空いてる日があったら教えて」
「わかった」
通話を終えた後、舜と表示された画面を見ながらため息をこぼす。
大学に入学してから一年。
同じような会話を何度繰り返しただろうか。
舜の交友関係が広いことは高校時代からよく知っていたし、誰とでも仲良くなれるところが彼の魅力の一つでもあった。
だから、そこに口を出すつもりはないけれど、約束すらできない日々が続くと不安にもなる。
「次、いつ会えるのかな」
聞きたくても、聞けない言葉。
そんなことを言えばわがままだと思われるかもしれない。愛想を尽かされてしまうかもしれない。
そんな、かもしれないという言葉を並べて本日二度目のため息をこぼす。
同じ大学に進学を決めていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。
今度はたられば。最近、お決まりのコース。
そして、最後には決まって楽しかった思い出はがりを振り返るようになっていた。
まだ、大丈夫。
まだ、続けられると自己暗示を繰り返す。