「ふーむ」
マイに話を聞くが、どうにも要領を得ない。
ずいぶんと動揺しているようだ。
「よし、わかった」
俺は決断した。
なぁなぁにするつもりだったが、マイがこんな状態になるなんて。
これは一度、俺自身が向き合わねばならぬ問題らしい。
「オハヨ、ゴザイマス」
ちょうど登校してきた転校生を見かけ、俺は立ち上がった。
マイがとなりで「え!?」と声を漏らす。
おろおろとマイの手が宙を掻いている。引き留めるべきか迷っているのだろう。
俺は安心させるべく力強く頷いてやった。
途端、マイは勢いよくブンブンと首を横へ振りはじめる。
そんなに心配しなくても大丈夫だ。という意味を込めてサムズアップをして、俺は歩き出した。
「ちがっ!? そうじゃなくてぇ~!?」
俺は背後の声をムシして、転校生の前に陣取った。
問題ない。いざというときはブザーでも鳴らせばいい。
「っ!? イロハサ……イロハ、チャン。アノ、エット、オハヨ、ゴザイマス」
「おはよー。<ねぇ、今日の放課後空いてる?>」
<え!?>
<授業が終わったら、校舎裏で会おう>
<!?!?!?>
* * *
「アノ、イロハ……チャン。オマタセ」
<ウクライナ語でいいよ。ごめんね。呼び出しちゃって>
<いっ、いえ!>
転校生はビクビクと挙動不審だった。
なんだか俺が悪いことをしている気になってくる。
というか冷静に考えて校舎裏に呼び出されるとか怖すぎなのでは?
<べつに取って食おうってわけじゃないから安心して。聞きたいことがあっただけなの>
<な、なんでしょうか?>
<えーっと、わたしのことよく見てるよね? なにかその、理由があったりでもするのかなーと思って>
<えぇえええ!?!?!? み、みみみ見てるのバレてたんですか!?!?!?>
<いやいや、ガン見だったじゃねーか!>
えぇえええ!? 自覚なかったのか!?
そっちのが驚きだわ!
転校生は<ウソ><そんな><恥ずかしい>とぶつぶつ呟いている。
なぜアレでバレてないと思ったのか。いや、子どもの注意力なんてそんなもんか。
<えと、あの、あれは、その、無意識で……ごめんなさいっ!>
転校生は慌てふためいていた。
どうやら、幸いにも悪意を持ってこちらを見ていたわけではなさそうだ。
となるとやはり……。
<べつに怒ってるわけじゃないよ。ただちょっと、わたしもあなたのことが”気になってた”だけ>
<え……ワタシのことが、ですか?>
<うん>
<!?!?!?>
俺は深呼吸して、意を決する。
こちらの決意が伝わったのか、転校生もごくりと生唾を飲み込んだ。
<それで……その、聞きたいんだけど。やっぱり、あなたはわたしのことを――>
<あの、それは、じつは、その、ワタシはあなたのことを――>
<――知ってるの?>
<――愛してます!>
<<……え?>>
時間が止まった。
お互いに至近距離で顔を見合わせる。
<<えええぇええええええ~~~~!?!?!?>>
お互いに大混乱で、あたふたと身振り手振りしてしまう。
はぇえええ!? もしかして俺って今、告白された!? なんで!?
<ど、どどどどういうことなんですか!? 日本では校舎裏に呼び出したら愛の告白をするんじゃないんですか!?>
<だれだそんな知識吹き込んだやつは!?>
<え、だって転校してきてから校舎裏に呼び出されたときは毎回、告白されてたので……>
<美少女か!?>
<え、えへへ……ありがとうございます>
褒めてねぇよ!
なんだこいつリア充か!? そんなにモテモテだったのか!?
まだ転校してきて数週間だろーが!
というか……ん? あれ? ちょっと待って?
もしかして転校してからクラスメイトとギクシャクしてると思ったけど、あれってたんに美少女すぎて近寄りがたかっただけ?
それが最近、日本語もいくらかわかって距離が縮まってきたから……。
んなもん、わかるかぁー! アニメキャラならまだしも、俺にゃあ人間の顔なんて大して見わけつかねーよ! 良し悪しなんてなおさらだ!
神秘的? な外見に加えて、おそらく性格もよいのだろう。
まぁ、男子が惹かれるわけだ。俺にはさっぱりわからないが。
<なんで、よりによってわたし?>
今の俺って女だよな? 間違ってないよな?
たしかに最近はちっとばかし、現実にも興味を持ててきた。
だからって恋愛にまで興味が湧くほど、現実を認めたわけではない。
<きっかけは、その……これです>
取り出されたのは学生手帳だった。
開かれるとそこには、丁寧に折りたたまれたプリントが一枚。
俺が作った日本語とウクライナ語の対応表だった。
<最初、日本は排他的で寂しい国だと思いました。日本人は日本語ができる人にはやさしい。でもわからない人には厳しい。そう思ってました。……けど、このプリントをもらってから世界が変わりました>
<それを言うなら、一番最初に話しかけてくれたあの男の子……えーっと>
<男の子……?>
あー、ダメだ。名前を思い出せない。
他人に興味がないから、人の名前を覚えるのも苦手だ。
VTuberの名前ならいくらでも覚えられるのに。
<あっ、わかりました。最初に告白してきた人ですね。あの人は苦手です。最初はやさしかったけど、途中からイジワルしてくるようになりました。ワタシのことがキライになったんだと思います。それなのに告白してきたから、きっとからかってきたんですね>
<男の子ー!!!!>
俺は崩れ落ちた。
なぜ、そこで素直になれなかったんだ!
<あのとき最初に話しかけようとしてたのはイロハ……チャンです。男の子は割り込んできただけです>
そうだったかなー!?
そんなことなかったと思うけどなぁー!
<イロハ……チャンにプリントをもらってから、自分でも日本語の勉強をするようになって。スマートフォンで勉強の動画を探したりして>
<ん?>
<それで……見つけちゃったんです>
<んんん!?>
マズい。まさかこの流れは。
転校生がスマートフォンの画面を見せてくる。
<ごめんなさい! ワタシ、イロハ……チャンが配信してることを知ってしまいました!>
<あああぁぁぁ……!>
やっぱりバレてたらしい。
マイに話を聞くが、どうにも要領を得ない。
ずいぶんと動揺しているようだ。
「よし、わかった」
俺は決断した。
なぁなぁにするつもりだったが、マイがこんな状態になるなんて。
これは一度、俺自身が向き合わねばならぬ問題らしい。
「オハヨ、ゴザイマス」
ちょうど登校してきた転校生を見かけ、俺は立ち上がった。
マイがとなりで「え!?」と声を漏らす。
おろおろとマイの手が宙を掻いている。引き留めるべきか迷っているのだろう。
俺は安心させるべく力強く頷いてやった。
途端、マイは勢いよくブンブンと首を横へ振りはじめる。
そんなに心配しなくても大丈夫だ。という意味を込めてサムズアップをして、俺は歩き出した。
「ちがっ!? そうじゃなくてぇ~!?」
俺は背後の声をムシして、転校生の前に陣取った。
問題ない。いざというときはブザーでも鳴らせばいい。
「っ!? イロハサ……イロハ、チャン。アノ、エット、オハヨ、ゴザイマス」
「おはよー。<ねぇ、今日の放課後空いてる?>」
<え!?>
<授業が終わったら、校舎裏で会おう>
<!?!?!?>
* * *
「アノ、イロハ……チャン。オマタセ」
<ウクライナ語でいいよ。ごめんね。呼び出しちゃって>
<いっ、いえ!>
転校生はビクビクと挙動不審だった。
なんだか俺が悪いことをしている気になってくる。
というか冷静に考えて校舎裏に呼び出されるとか怖すぎなのでは?
<べつに取って食おうってわけじゃないから安心して。聞きたいことがあっただけなの>
<な、なんでしょうか?>
<えーっと、わたしのことよく見てるよね? なにかその、理由があったりでもするのかなーと思って>
<えぇえええ!?!?!? み、みみみ見てるのバレてたんですか!?!?!?>
<いやいや、ガン見だったじゃねーか!>
えぇえええ!? 自覚なかったのか!?
そっちのが驚きだわ!
転校生は<ウソ><そんな><恥ずかしい>とぶつぶつ呟いている。
なぜアレでバレてないと思ったのか。いや、子どもの注意力なんてそんなもんか。
<えと、あの、あれは、その、無意識で……ごめんなさいっ!>
転校生は慌てふためいていた。
どうやら、幸いにも悪意を持ってこちらを見ていたわけではなさそうだ。
となるとやはり……。
<べつに怒ってるわけじゃないよ。ただちょっと、わたしもあなたのことが”気になってた”だけ>
<え……ワタシのことが、ですか?>
<うん>
<!?!?!?>
俺は深呼吸して、意を決する。
こちらの決意が伝わったのか、転校生もごくりと生唾を飲み込んだ。
<それで……その、聞きたいんだけど。やっぱり、あなたはわたしのことを――>
<あの、それは、じつは、その、ワタシはあなたのことを――>
<――知ってるの?>
<――愛してます!>
<<……え?>>
時間が止まった。
お互いに至近距離で顔を見合わせる。
<<えええぇええええええ~~~~!?!?!?>>
お互いに大混乱で、あたふたと身振り手振りしてしまう。
はぇえええ!? もしかして俺って今、告白された!? なんで!?
<ど、どどどどういうことなんですか!? 日本では校舎裏に呼び出したら愛の告白をするんじゃないんですか!?>
<だれだそんな知識吹き込んだやつは!?>
<え、だって転校してきてから校舎裏に呼び出されたときは毎回、告白されてたので……>
<美少女か!?>
<え、えへへ……ありがとうございます>
褒めてねぇよ!
なんだこいつリア充か!? そんなにモテモテだったのか!?
まだ転校してきて数週間だろーが!
というか……ん? あれ? ちょっと待って?
もしかして転校してからクラスメイトとギクシャクしてると思ったけど、あれってたんに美少女すぎて近寄りがたかっただけ?
それが最近、日本語もいくらかわかって距離が縮まってきたから……。
んなもん、わかるかぁー! アニメキャラならまだしも、俺にゃあ人間の顔なんて大して見わけつかねーよ! 良し悪しなんてなおさらだ!
神秘的? な外見に加えて、おそらく性格もよいのだろう。
まぁ、男子が惹かれるわけだ。俺にはさっぱりわからないが。
<なんで、よりによってわたし?>
今の俺って女だよな? 間違ってないよな?
たしかに最近はちっとばかし、現実にも興味を持ててきた。
だからって恋愛にまで興味が湧くほど、現実を認めたわけではない。
<きっかけは、その……これです>
取り出されたのは学生手帳だった。
開かれるとそこには、丁寧に折りたたまれたプリントが一枚。
俺が作った日本語とウクライナ語の対応表だった。
<最初、日本は排他的で寂しい国だと思いました。日本人は日本語ができる人にはやさしい。でもわからない人には厳しい。そう思ってました。……けど、このプリントをもらってから世界が変わりました>
<それを言うなら、一番最初に話しかけてくれたあの男の子……えーっと>
<男の子……?>
あー、ダメだ。名前を思い出せない。
他人に興味がないから、人の名前を覚えるのも苦手だ。
VTuberの名前ならいくらでも覚えられるのに。
<あっ、わかりました。最初に告白してきた人ですね。あの人は苦手です。最初はやさしかったけど、途中からイジワルしてくるようになりました。ワタシのことがキライになったんだと思います。それなのに告白してきたから、きっとからかってきたんですね>
<男の子ー!!!!>
俺は崩れ落ちた。
なぜ、そこで素直になれなかったんだ!
<あのとき最初に話しかけようとしてたのはイロハ……チャンです。男の子は割り込んできただけです>
そうだったかなー!?
そんなことなかったと思うけどなぁー!
<イロハ……チャンにプリントをもらってから、自分でも日本語の勉強をするようになって。スマートフォンで勉強の動画を探したりして>
<ん?>
<それで……見つけちゃったんです>
<んんん!?>
マズい。まさかこの流れは。
転校生がスマートフォンの画面を見せてくる。
<ごめんなさい! ワタシ、イロハ……チャンが配信してることを知ってしまいました!>
<あああぁぁぁ……!>
やっぱりバレてたらしい。