翌日、まだ日が昇るか昇らないかという時刻。
 寝台の上で体を起こすと、朝の空気が皮膚に触れる。

「段々と涼しくなってきたなあ」

 ついこの間まで、寝苦しいほどだったのに。

 玲燕は布団をぎゅっと引き寄せる。
 ここの寝台はふかふかしていて、寝心地がいい。ずっと寝ていたくなるが、そういうわけにもいかない。

 玲燕は寝台から抜け出すと、着慣れた胡服に身を包む。明明にどんな服が好きかと聞かれ、動きやすいからとお願いしたものだ。

 屋敷の中心にある庁堂に行くと、既に天佑の姿はそこにあった。

「天佑様、おはようございます」
「おはよう」

天佑は玲燕のほうを見て、柔らかく目を細める。

「今朝は、昨日の場所に行くのだろう?」
「はい。そうしたいと思っております」

 玲燕は頷いた。

 同じ場所でも、昼と夜とでは全く印象が異なる。
 天佑に連れられた向かった場所を、玲燕はじっくりと観察するように眺めた。昨日は暗くてよく見えなかなかったが、巌路川は川幅五メートルほどで、川岸は膝の丈ほどの草に覆われていた。

「昨日私達がいたのはどの位置でしょうか?」
「ちょうどあのあたりだ」