「おーい、こっちこっち!」

「パス!!センキュ!!」

6限が終わり、教室のバルコニーでさっき自販機で買ったばかりのサイダーを勢いよくカチッと開ける。

シュワワワと小さい泡が弾けて心地のよい音に包まれた。

今日も彼は楽しそうにサッカーボールを追いかけている。

友達や先輩にも人気のようで、彼の周りにはいつも人がいる。

いつ見ても笑顔で、まだ一度も話しかけたことはないが気になっていた。

最近、ふと気がつくと、いつも目で追いかけている存在が彼だった。

わたしの視線と交差した彼の瞳が大きく揺れる。

どうしていいものやら、考えるよりも先に「がんばれ…!」という声が前に出た。

部員の声で掻き消されてしまわないか心配だったが、彼の鼓膜に届いたようで安心した。

ちょっと照れ笑いをして手を振ってくれた。

それだけで今は充分だった。

「菜々、何してるの?」

大好きな心友の声が近づく。

「うーんとね…サッカー見てた。かっこいいじゃん?」と共感を求めてみたが、いまいちみたいで寂しくなった。

「詩織は何見てるのがすきー?」

わたしのマイブームはサッカーを観ることだけど、彼女のマイブーム的なものを知らないなと思った。

「小説だよ〜〜〜」

もうそれしかないじゃん!と若干キレられたが、たしかにそうだったなとも反省した。

もくもくと厚みを増した雲が校舎に近づき、あたりは一層暗くなった。

実は、詩織のすきな存在が気になっている。

わたしがいつもの調子で突いた一言が、若干気まずさを作ってしまったのは、目の逸らしようがなかった。

そんなに触れてはいけないキーワードだとも思っていなくて、というより、こういう話をできるのが心友だと、どこかで腑に落ちない。

もしかして、告白がうまくいかなかったのだろうか。

そもそも自分から進んで告白できるタイプなのだろうか。

すでにすきな人には、パートナーがいるのかもしれない。

いろんな事が考えられて、頭を抱える。

最悪の状態が今起きているのだとしたら、失言なのはまちがいないなとも思った。

だけど、本当のところはわからないのに早とちりするのはよくない。

「詩織。聞きたいことがある。」

これから何が起こるかなんて、話してみないと分からない精神が顔を出した。