「早川くんの事が気になってて大好きなの。付き合って?」

上目遣いで見上げた彼は、かなり動揺していてかわいいなと思った。

状況を呑み込んだ彼の口からは「お願いします!」という言葉が出て、意外だなと呆気にとられた。

彼女を諦めたのだろう。私が思っているよりも潔く、切り替えの早い男なんだなと思った。

だから、彼に秘めた心があることなんて知らなかったし、見て見ぬふりをすることになるなんてこの時はまだ知らなかった。

「お疲れ!」

月が西から東へ沈みかけた頃、ようやく部活から解放された。

部員のみんなのドリンクを配り終わり、労いの言葉をかけながら、帰りの支度もせっせと済ませる。

「ねぇ、一緒に帰らない?」

爽やかな彼と下校する、というのは乙女が絶対にしたい小さなイベントの一つ。

そういえば、どこに住んでいるか聞いていなかったので、これを機にどこまで一緒にいられるのかも知れるなとカバンを肩にかける。

「僕、こっち方面なんだけど、キキは?」

高すぎず、低すぎずの心地よい声が耳にこだまする。ちょっと特別感に浸りながら、同じ方向を指差した。

偶然とはいえ、近所に住んでいるという事実に驚きを隠せずに「運命かもね?」と少女マンガに出てきそうなキザなセリフを呟いてしまった。

こういうドキッとしたセリフを積み重ねることこそが、男の心を掴むという真理も学んでいるつもりだ。

「ここ、乗せろよ」

大して中身があまり入っていないカバンを横取られて焦ったが、重たい荷物を彼女になんて持たせられるわけがないという彼なりの配慮だということを知る。

「あ、ありがとう。中身ほぼ入ってないけど乗せてくれるんだ。優しいね。」

じわじわと彼の優しさが身にしみるような口調で感謝の言葉を伝えてみる。

「うん。ちょっと入ってるだろ?だからいいんだよ。」

恩着せがましくもなく、かといって荷物が少ないことをネタにするような性格ではないのだと、帰り道がもう少し長く続けばいいなと思った。

ちょっといいかも、の彼と3日間過ごしたら、ワタシの気持ちはどうなるんだろう。

初めてかも、3日間過ごしてバイバイは寂しいと感じたのは。

「ちゃんと見てる。キキが家に帰り着いたの確認したいから。」とワタシがドアの鍵をきちんと閉めたのを確認してから帰る後ろ姿に今まで感じたことのない鼓動を感じた。

なんで、こんなにドキドキするの。

彼氏に呼び捨てされるというちょっとしたことですら、顔が真っ赤になってたし、ほんと恋してるみたいでやばいかも。

「未来の花婿になって!」ってお願いする時が来るのかなぁと口角が上がったまま、今晩のホットケーキを頬張る。