伊吹がおらず、朝食中は私以外来ていなかったので、料亭並みの量と味に驚きつつ、すぐに完食してしまった。
 食後のお茶を飲んでほっこりしていると、竜田さんが入ってきた。
「玲奈様、お時間よろしいですか?」
 いつもながらにナイスタイミングだ。
 感心しながら頷くと、竜田さんは笑みを浮かべた。
「では、街に玲奈様の生活用品を揃えに行きましょう。伊吹様にも言いつけられておりますし」
「はいっ、行きます!」
 久しぶりの買い物に胸を弾ませながら準備をしに、私は部屋に戻った。

 準備を終え、まだ覚えたばかりの屋敷の道順を覚いだしながら玄関に行くと、すでに竜田さんと龍見さんがいた。
「お待たせしてすみません」
 待たせてしまっただろうと思って軽く謝ると、龍見さんは無反応だったが、竜田さんは優しく「大丈夫ですよ~」と言ってくれた。
「それでは行きましょうか。龍見」
「わかってるって」
 なにやら二人で合図をした後、私たちの周りを紅葉が囲んだ。
「これ、伊吹と会った時と同じ......⁉」
 一度経験していたからか、そこまで驚かなかった。
 紅葉が一つ残らず消えると、そこには見覚えのある場所が広がっていた。
「お母さんとお父さんがいるお墓......」
「はい、ここら辺に人がいない場所がなく、ここは玲奈様にとっても馴染み深いところでしょうから、こちらに参りました」
 私は二人のお墓にお参りした。
 さんや、お世話を焼いてくれる竜田さんや龍見さんなど、たくさんの人に会えたこと。あの家から助け出してもらえたこと。こんな私でも、愛してくれる人がいたこと。
 いろんなことを報告した。
「玲奈様、そろそろ」
「はい」
 龍見さんに呼ばれ、急いで立ち上がる。
「お父さん、お母さん、行ってきます」
 私は決意を込めて、二人が眠るお墓を振り返った。

 竜田さんと龍見さんと世間話をしていると、あっという間に街についた
「それではまず、服を揃えましょう。何かこだわりのブランドはありますか?」
 ブランドを聞かれ、少し悲しくなった。
 おそらく何の疑いもなくブランドを聞くのは、二人もそれなりに金持ちだからなのだろう。
「こだわりとかはないので、そこらへんの安い服で大丈夫です」
 できるだけ気にしていないように言うと、龍見さんが眉間にしわをよせた。
「あなたは龍華家当主、伊吹様に寄り添う方です。伊吹様に寄り添うということは、身なりはきちんとしないといけません。下手をすれば、龍華家の品位が落ちますから」
 そう言われて恥ずかしくなる。
 そこまで気が回らなかった。
 一人反省をしていると、竜田さんが静かに諭す。
「龍見。玲奈様はまだ、龍華家の事を詳しくはご存じないのですよ」
 その言葉にしょうしょう不服そうだったが「申し訳ありませんでした」と謝ってくれた。
 頭まで下げた龍見さんに慌てたのは私だ。
「やめてください!当たり前のことが出来ない私が悪いんですから」
 自己嫌悪に陥りながらも、何とか答える。
 そこで竜田さんが暗くなった空気を換えようとしたのか、明るい声を出した。
「では気を取り直して、服屋に行きましょう。玲奈様、あちらのお店でもよろしいですか?」
 竜田さんがさしたのは、絶対に一級品ばかりが置いてあるだろうと予想できる店だった。
 最初は断りたい気分だったが、そんなことを言ってしまえば、また龍見さんが怒ってしまうだろうと思ったので、できるだけ表情には出さないように明るく答えた。
「はい!そこで大丈夫です」
「では早速参りましょうか」
 竜田さんにつられ、私は店に足を踏み入れた。