目が覚めると、知らない風景が広がっていた。
「ここは...?」
「目が覚めたか」
 突然背後から聞こえた声に驚いて、飛び上がってしまった。
 急いで振り向くと、クスクスと笑いながらこちらを見ている、あの男性、龍華さんがいた。
 急に抱きしめられたり、変なところに連れてこられたり、何の説明もなかったため、もはや警戒心しかない。最初に感じた懐かしさなど、今では全くない。
「ここは...どこですか?」
 おそるおそる聞くと、自信に満ちた声色で
「ここはおれの家だ。これからは玲奈の家でもある」
 突然の衝撃発言。
「は、はぁ~~~~~⁉」
 私が驚きすぎてしゃべれなくなっているうちに、龍華さんが抱き着いてきた。
「玲奈は俺のものだ。もう二度と、誰にも渡さない」
 急いで龍華さんから離れようとしたが、龍華さんの言い方に違和感を覚えた。
 ”もう二度と”?まるで一度、誰かを失ったような言い方だ。
「伊吹様。準備が整いました」
 どこからやってきたのか、突如現れた二人組が声を掛けてきた。
 抱きしめられているのを見られ、顔が真っ赤になるのが分かる。
「何を照れておるのだ」
 龍華さんが私を茶化す。
「いや、その前に今がどういう状況なのか教えて下さい!」
 龍華さんが現れてから何の説明も受けていないのだ。私はほとんどパニック状態だ。
 すると、あの二人組が呆れた視線を龍華さんに向ける。
「伊吹様、何の説明も無しに連れてきたんですか?更には困惑している女性に急に抱き着くなど、言語道断です」
 そう言われると、龍華さんは渋々といった感じだが私を解放してくれた。
「えっと、まずなんで私の前に龍華さんが来たのか、聞いてもいいですか?」
 相変わらず警戒心しかなかったが、これが重要なので聞いてみることに。
「お前が、私が唯一愛したものと同じ魂を持っていたからだ」
 この人は何を言っているのかと疑いたくなる。
「伊吹様、こちらの方は前世の記憶も無いのですよ?そんなに簡単にまとめ過ぎては、伝わらないに決まっています」
 再び呆れた目を龍華さんに向けている。
 若様と呼んでいるということは、おそらく龍華さんに仕えているのだろう。主従関係なのに、そんな目を向けても良いのだろうか?
 そう思っている間に、二人組のうちの一人は龍華さんに説教を始めた。
「代わりに私が説明いたします」
 あの二人組のうちの一人だ。
「私は竜田道空と申します。あちらの者は龍見隆之介です。私たちは龍華伊吹様にお仕えしております」
「わ、私は立花玲奈です」
 すると竜田さんは人のよさそうな笑みを浮かべて、説明を始めてくれた。もう一人...龍見さんとは真逆の人がと思った。
「玲奈様ですね。先ほどは伊吹様が失礼いたしました。では、説明させていただきます。まず伊吹様ですが、伊吹様は龍華家の次期当主の方で、龍のあやかしです。そして、伊吹様に仕えている者もみな、あやかしでございます。」
「あやかし...」
 噂でしか聞いたことがない、あやかしの存在。
 あやかしは、霊力と人間離れした美貌を持ち合わせていて、人間よりも神に近い存在と言われている。更に龍のあやかしともなれば、他のあやかしと比べ、とびぬけて高い霊力と美しい容姿をしている。
 そんなあやかしが私のような薄汚く、家を追い出されるような少女に何の用なのか、疑問しかでてこない。
「そして、玲奈様の前に伊吹様が現れたのは、玲奈様が、伊吹様の想い人の生まれ変わりだからです」
「......」
 驚いて声も出ないというのはまさにこのことだろう。
「そこからは俺から説明しよう」
 ほとんど放心状態の私と竜田さんの話に割り込んできたのは、龍華さんだ。やっと龍見さんの説教から解放されたらしい。
 ...龍見さんのまだ納得していないような視線が龍華さんを射抜いているが。
「俺の想い人は、玲奈と同じ魂を持っていた。そして、その想い人は事件に巻き込まれ、若くして死んでしまった。だから、彼女と約束したんだ。次に生まれ変われば、かならず、守り抜くと」
「だからと言って、急に何も知らない人を知らないところに連れてくるのはどうかと思いますがね」
 龍見さんがすかさずつっこむ。
 龍華さんは少しうんざりした様子だが、返事をしなかったので無視することにしたらしい。
 そんなやり取りがされている中、私の頭はキャパオーバー寸前だ。
「そろそろ疲れただろう。寝室に案内しろ」
 私の様子に気づいたのかは怪しいが、龍華さんが竜田さんに命じる。
「かしこまりました」
 竜田さんに案内されて改めて屋敷を見回すと、広さに圧倒される。
 そして、竜田さんに案内された寝室は予想を裏切らない広さだった。
 もう驚きすぎて、いちいち反応するのも面倒くさくなるほどになってしまった。
 「あぁ、もう疲れた......」
 けれど、面倒くさくなるのと疲れるのは違うので、一人になるなり布団に倒れこんだ。
 そして頭がキャパオーバー寸前のまま、私は意識を手放した。