急いで帰宅すると、いつもより慌ただしく帰宅した私に驚いたのか叔母さんが顔を出した。とても迷惑がっているような顔をして。
「なにやってんのよ」
 苛ついた口調で問われる。学校で確認するように言われていた学費について聞くと、馬鹿にしたような笑みを浮かべ、話し始めた。
「バイト代を渡してるのに学費が払われてないって?そんなのあんたの教育費に全て消えてるに決まってんでしょ」
「教育費...?」
 私の不安な表情を見逃さなかったようで、叔母さんは更に追い打ちをかけてきた。
「そうよ。あんたのたったあれだけのバイト代で足りるわけがないでしょ。それとも何?学費だけ払えばいいとでも思ってたの?」
 私の身体が少しずつ痙攣し始めた。それに気付いていないかのように、叔母さんは話を続ける。
「何よその態度は!ここまで育ててやったことだけでも感謝しなさい!不満があるのなら出て行けばいいわ。どうせ誰も止めやしないんだから」
 そう言って、私を家の外に締め出した。

 それからはショックで自分が何をしているのかさえ覚えていなかった。
 いままでも怒鳴られることはしょっちゅうあった。けれど、家から閉め出されるのは初めてだった。
 そんなことを考えている間に、いつの間にか私は両親のお墓の前にいた。
 六歳の時に私を置いて行ってしまった両親。小さいころの記憶なのであやふやなことも多いが、少なくとも今の生活よりも楽しかったことは覚えている。
 いつの間にか私は、両親が眠っている墓地に足を運んでいた。
「ねぇ、お父さん、お母さん。私、何か悪いことしたかな?普通に生活を送ってきただけなのに」
 私の頬に、涙が流れる。
「どうして私だけこんな目に合わないといけないんだろう?お父さんとお母さんが生きてたら、この生活も何か変わってたのかな?」
 もう立っていることも出来なくて、地面に膝を落とす。
「もう、誰でもいい。誰でもいいから私を助けて...」
 最後の方はほとんど声になっていなかった。
 おかしいな。もう慣れたはずだったのに。今までは悲しいという感情すら湧いてこなかったのに。涙だって、出ないと思っていたのに。
 すると、どこからやってきたのか大量の桜の花びらが私の周りを囲む。
「...っ!」
 なぜ秋なのに桜が?
 しばらく警戒していたが、徐々に減っていく桜に、私の警戒心も和らいでいく。
 完全に桜が消え去ると、そこには一人の男性が佇んでいた。