一通りの報告を双方終えると、清人は急にまじめな顔になった。

「本当に、今回のことはありがとう。理香ねぇと二人分の礼を言うよ。今度はみんなで泊まりに来てくれって。上村さんの妹さんも外に出れるようになったら是非と言っていた」

「うん……。悪いね……。由香利のことだけど、まだ結果は分からないよ……。ああ見えてしっかり妹キャラで甘えんぼだからさ、面会の許可が出たら会ってやって」

 その話題になったとたん、菜都実の表情は苦しそうに陰った。

 これまでにも同じ事は何度もあったはずなのに、それだけ今回の状況が厳しいと言うことなのか。

「ちょっと店の準備してくるわ」

 立ち上がって店の奥に消えた菜都実を見送る三人はなんと声をかければいいのか分からずにいた。




「会長、今回のお仕事は終わりで大丈夫ですか?」

 菜都実姉妹の話題を続けるのは得策ではないと思った茜音は、清人の話題に戻すことにした。

「結局茜音の宿題は先送りになったけど……。私から仕掛けておいて、解決できたのは片方だけだったからね」

「いいの。まだ時間はあるしぃ。それに、学校の中も居やすくはなると思うからそう変わっただけでもいいとするのぉ」

「本当は、あのくらいじゃまだお礼には足りないと思うから、協力できることがあったら言ってな? あと、再会できたら、ちゃんと報告してくれれば、今度は速報で出してやるよ」

「やめてくださいぃ!」

 これ以上騒がれると、やりたいことも出来なくなってしまうではないか。どのみち、あんなふうに全校に知られてしまっては報告もしなければならない……。

「でも、会長はその頃には卒業していなくなっちゃうけど、誰に報告すればいいんですか?」

「そうですよぉ。どう引き継がれるんですかぁ?」

 清人が書いた記事の例の最後の一文を思い出す二人。

「自分に直接でもいいし、生徒会室で報告してもらえればいいと思う。片岡さんの存在がもう学校の伝説みたいになってるもんな」

 既に校内には清人の言うとおり、自分たちが卒業した後も、世代を越えて語り継がれそうなほどの勢いは出来てしまっている。

「伝説のお姫様になれるよ茜音は……。特に成功した暁には……」

「うぅ、悲劇だったら嫌かもぉ……」

「どっちにしてもお姫様の宿命だな……。あまり騒ぎすぎないように引き継ぎしておくよ」

「茜音は苦労の方が多いからね……。少しは楽にしてやらなくちゃ」

 佳織が茜音と出会ってからはまだ2年弱。

 その期間だけでも彼女の問題の大きさを認識させられたし、これから半年はさらに期限へのプレッシャーもかかってくる。余計なことで苦労はさせたくない。

「とにかく、場所探しの件は俺も協力するし、何かあったらここに来ればいいかな?」

「そうですねぇ……。探しに出かけなければここにいると思うし……、マスターさんに言っておいてくれれば……」

「もうそろそろ北の方には行けなくなるからね……」

 カレンダーを見る三人。

 11月に入ってしばらくすれば早い地域や山の上ではそろそろ雪の便りも聞こえてくる。

 そうなると茜音のような山奥に分け入る調査は春まで本格的には出来なくなる。もっともそんなときでも列車は走るので、線路沿いであれば見ることも出来るのだが、雪深くなってしまうと、景色もすっかり変わってしまう……。

「今度の土日はまた回ってくるよぉ……。無駄足になってもいいからぁ……」

 佳織が用意してくれている路線マップを見ながら、茜音はつぶやく。

「茜音?」

「候補地はまだたくさんあるし。なんかねぇ……、いろんな人と会えるようになったのが新鮮だし……」

「旅番組じゃないんだから……」

 佳織は苦笑しながらも、茜音が彼女の旅に別の価値を見つけだしていると感じていた。それは佳織自身も感じていることだったから。

 結局その週末は、可能な限り詰め込んだ予定とおみやげや名物情報を留守番役の二人に書きこまれた時刻表データをスマホのメールに送られて、茜音は冬の便りが届く直前の東北へと飛んでいた。