「はあぁ……。最近断るのが疲れちゃったんだよねぇ……。こんな私のどこがいいのかなぁ……」

「生徒会でも有名だもんな。顔は見たことなくても名前だけは知ってるっていう生徒多いぜ?」

「中学から高校生ぐらいが一番気にするわよね。その辺小学生は楽よ。たまに妙におませさんの子もいるけどね」

 理香は地元に戻った後は、小学校で事務員として働いているそうだ。もともと子供好きだった彼女にはちょうどいい職場だと言う。

「もう少し落ち着かないかしらねぇ……。茜音ちゃんが一人でどうにか出来る範囲を超えてるでしょう?」

 本来なら茜音の騒動も周りが勝手に過熱しているだけなので彼女自身に責任はないけれど、誰かが危害を与えに走らないとも限らない。

「かいちょー、茜音に手を出す奴がいたら容赦なく退学だかんね」

「ほえぇ……。そんなことにはなってほしくない……」

「でも、用心に越したことはないでしょうね。さて、それじゃあの答え合わせの場所に案内するわ……」

 一区切りついたところで理香はまた全員を車に乗せ、朝もバスで通った道を南へと進んでいく。

「佳織ちゃんは来てるけど、他の人たちはまだだもんね。今日は天気がいいからきれいに見えるわよ」

 以前はヤナバスキー場としていたゲレンデ斜面の芝はそろそろ枯れはじめているようで、斜面はまだらの模様を描いている。

 突然、国道から外れ細い道へと車を進めていった。

「これから先、カーブが多いから注意してなさいよ」

「はーい。でももう少しで紅葉真っ盛りだねぇ……」

「この辺は難しいのよ。なかなか地元の人だってベストの日に休みなんか取れないもん」

 今走っている道も先にスキー場があるらしく、途中まではそれなりに広い道が続く。しかし急坂の部分もあり、スタッドレスタイヤだとしても入りたくない山道だ。

 そんな坂を上っていき、次に車1台通るのがやっとという林道に入っていく。対向車が来てもすれ違いは出来ない。

「こんなとこになにあんのぉ~」

「まぁまぁ、黙ってなって」

 佳織は周りを見回しながらデジカメを用意している。

 突然、それまで車の両サイドを覆う木々がなくなって空が大きく正面に見えた。

「到着」

「茜音、菜都実、由香利ちゃんも急いで下りた下りた」

「なんだっつーのよ」

「ほわぁぁ…………」

「写真のまんまですねぇ……」

 佳織にせっつかれて車から降りた四人は、目の前の光景にしばし言葉を失った。

 写真で見ていた景色そのままが目の前に広がっている。急斜面の一部がきれいに整備されており、そこからは目の前の湖を見下ろす絶景のポイントになっているの。

「ここがあの写真の答えかな。ハンググライダーで木崎湖の岸のところまで下りていけるのよ」

「そうなんですかぁ……」

「本当は雪の時を送ればもう少し問題を難しくできたんだけどね。でもここまで登れないし」

 冬はこのあたり一面が雪で覆われ、この場所まで素人が上ってくるのはほぼ不可能だという。

 道も一般車は閉鎖されてしまうと言うことなので雪の中を歩いて上ってくるしかないそうなのだが、晴れた日はそれは見事な景色となると言う。

「んでも、どうして教えてくれなかったんだよ。こんな手の込んだことしてさ……」

「そうね……。もう少し早く素直に教えていれば良かったかもね……」

 会話はそこで途切れた。

 清人や茜音が住んでいる場所からこの地区はそれほど遠いわけではない。今回のような夜行バスや特急列車を使えば数時間で到着してしまう。

 二人を遠ざけておく理由がなければ、もっと早い時間で再会していても良かったわけだ。

 受験に合格してからという条件はあったものの、住んでいる場所を教えていなかったというのはどこか引っかかる話ではある。

「もしかしてぇ……」

「うん、この先は邪魔は消えた方がよさそう……」

 佳織と茜音は顔を見合わせて頷いた。

「あのぉ……。あそこの温泉に連れていってもらえませんか? ちょっと朝早かったもんだから……」

 本当はこの景色をもっと見ていたかったのだけど、雰囲気の移り変わりを考えれば、このあたりが自分たちの役目も潮時だ。

「えー? もう少し見ていたいんだけど……」

「菜都実……」

 佳織の目配せで菜都実姉妹も意図をくみ取ったようだ。

「あとでもう一度ここには案内するから、今はちょっと。ごめん」

 自分たちの認識を整えてから、佳織は理香へ声をかけに立ち上がった。