菜都実の父である、マスターからの話を聞いて三人とも意外に思っていた。生徒会長でもある彼が喫茶店に出入りしていることが知れれば、少なからず影響があることは彼自身が一番理解しているはず。

 それでもこの「週末」を狙って来店するということは、それなりの理由があるに違いないから。

「何か情報集めですか?」

「この写真の風景のことを知っている人に会いたくてね。そしたら今日はいるからって言うから」

「ほえ?」「なんだってぇ?」

 壁に掛けられている写真を見て話す清人の言葉に、三人は呆気にとられてしまった。

「ははぁ、そうゆーことか……。かいちょー、この写真誰が撮ったか知ってんの?」

「いや」

 菜都実の質問に答える様子は本当に知らないらしい。

「茜音! 佳織も! かいちょーの相手よろしく。あたしもすぐ行く!」

「ほぇー」

 近くにいた茜音を座らせ、奥にいた佳織も引っぱり出し、菜都実は四人分のグラスに水を入れてやってきた。そして四人掛けの席の空いたところにもコップを置くと、自分もそこに腰を下ろした。

「んじゃ父さんあとはお店よろしこぉ~」

「おいおい……」

 マスターは予想していたらしく苦笑いだ。


「そいじゃ何が聞きたいのか教えてもらいましょうか」

「え?」

「だって、この写真のことでしょ? ほとんど茜音と佳織が撮ってきたんだってばよ。んだからかいちょーが会いたがっている人って言うのはこの二人なわけ」

「そうなのか……?」

 目を丸くした清人に、二人は頷く。

「それじゃ、思い出の場所を探しているっていうのは……?」

「そ、この茜音! 学校じゃひどいあだ名付けられてるけど、そういう理由がある訳よ。それこそ難攻不落にもなる理由がね」

「そうだったのか……」

 佳織の説明ではどう話がずれるか分からないので、茜音は簡単に経緯を話した。そして壁に飾ってある写真についても簡単に場所を話していく。

「なるほどね……。それで学校がある日はほとんどいない訳か」

「でも、会長は何でこの写真とお店が結びついたんですか?」

 佳織が不思議そうに尋ねた。

「ネットで自分も情報を探していたら、どっかのページにいろいろ書き込みがあってさ。この店でヒントが聞けるかもしれないってあってね。まさかそれがみんなだとは思わなかったけど」

「んじゃ、なにかこういう風景のことで問題でもあるんですか?」

「まぁそんなところだな」

 佳織がようやく本題に話を戻したので、彼は1枚の写真を三人に見せた。

「どこなんでしょう?」

 開口一番、茜音は尋ねた。どこか山の上から撮ったのだろう。写真の中心には湖があり、その周囲に集落や家がぽつぽつと建っているのが分かる。

「分かってれば意見をもらいに来ないよ。言ってみれば挑戦状とでも言うべきか……」

「はぁ、挑戦状ですかぁ……」

 茜音から写真を受け取った佳織はじっとそれを見ている。

「菜都実、虫眼鏡ある?」

「えぇ?!」

「菜都実、つり具の修理する道具の中にルーペが入ってるから、それでいいんじゃないか?」

 マスターからの助言をもらって菜都実が目的のものを佳織に渡す。

「関東じゃぁないね……。結構雪が降る場所と見るけどなぁ……」

 その写真をじっと見て、佳織は断言した。理由はそれぞれの家の屋根を見て判断したという。

「つまるところ、これを撮った場所に行かなきゃならんというわけっしょ?」

「ま、手っ取り早く言えばそう言うことだね」

 学校内では問題になりそうな菜都実の口調だけど、ここでは立場が違うし、清人もそれほど気にしている様子ではない。逆に三人が自分の持ってきた写真を見て興味を持ってくれたことに安心したようだ。

「でも、どうしてこの場所に行く必要があるんですか?」

 じっと見ていた写真を再びテーブルの上に置くと、佳織は再び顔を上げた。

「んー、まさか片岡さんたちが相手とは思ってなかったからなぁ……」

「何をぐだぐだ言ってんのよ。あたしたちじゃなかったら話したのにってどういうこと?」

 菜都実の迫力では本当にどっちが年上なのかよく分からない。

 観念した清人は、この写真を入手した経緯を説明し始めた。

 この春まで塾講師をしていた女性との話で、受験の後に会いに行くという約束をしたまではいいのだが、肝心の連絡がなかなか来ない。

 夏休みになって差出人の住所がない彼女からの手紙が来た。彼女の住んでいる場所についての手がかりの写真で、受験が終わったら来てもいいという内容。ヒントになりそうな消印は都内に出てきたときに投函したようで当てにならない。

 住所がないので、いったいこれがどこで撮影されたのか見当がつかない。いろいろなサイトで当たった結果、たどり着いたのがこの店だったということだった。