「しかし、残念だったね……。せっかくこっちまで来てくれたのに、申し訳ないことをしてしまった」
結局、その後も所々それらしいところを見ながら、宇和島まで足を伸ばした五人は夕食を食べたあと、家路を急いでいた。
日はとっくに暮れ、暗い山道には対向車の姿もない。
千夏をはじめ、地元組三人は朝が早かったせいか、暗い車内の後部座席で眠りについている。助手席には茜音。運転している雅春と旅の成果について話してた。
「いいんです。簡単に見つかるものじゃないって思っていました。逆に皆さんに気を遣ってもらって……。わたしの方が謝らなくちゃならないです……」
茜音は前を見つめた。集落を離れれば街灯などない。車のヘッドライトに照らされたところだけが視界だ。
「まぁ、ネット見てると、情報も色々集まってるようだし。まだまだ候補になる場所はあるんだろう?」
「そうですね。まだ行きたい場所はたくさんあるんです。それに菜都実と佳織がわたしがいない間にいろいろ調べてくれているみたいですから」
残っている二人が、ただ茜音の帰りを待っているわけがない。今回は突然のことだったので、一人での旅行となっただけで、夏休みの間は可能な限り探し歩くことを決めていた。その候補地選びは、留守番の二人に任せてある。
「茜音ちゃんは強いね……。それに比べて千夏は……。彼氏に告白も出来ないのか……?」
ため息混じりに小声で呟く雅春。
兄として、妹が幼なじみに気を寄せていることくらい、以前から分かっていたことなのだろう。一方で千夏が自分から告白できるようなタイプではないのを一番知っているのも雅春である。
「いいんですか?」
「いつまでも子供だって思っていたら、一人前に恋愛してたんだなぁ。でも、俺の初めての告白はもう少し早かったぞ?」
雅春は笑った。聞くと、彼にもお付き合いをしている女性はいるそうで、どことなく千夏に似ているのだそうだ。
「わたしは、初恋からここまで引っ張ってるじゃないですか?天然記念物だって言われますよ」
「千夏には、そのくらい頑張っていって欲しいんだ。今回の茜音ちゃんの話を聞いて、千夏に会わせてやりたいって思ったんだよ。今はどこにいるか分からなくなってしまった彼との思い出の場所を探すために、一生懸命になっている女の子がいる。それだけでも、今時の高校生には珍しいじゃないか」
「そうですよね……」
「千夏の性格のことは聞いたかい?」
「はい。少しですけど……」
茜音は眠りこけている千夏をちらっと見る。
「今は分からないかも知れないけど、千夏は本当におとなしくて、友達の輪にも入れなくて、いつも一人で遊んでいたんだ。遊び相手と言えば俺だった。でも、それじゃいけない。千夏にはもっと外を見て欲しい。自分の中に閉じこもるんじゃなくて、茜音ちゃんや和樹君みたいに外の空気を知っている人と付き合って成長して欲しい。このままじゃ千夏はなにも知らないつまらない子になってしまう。だから小さいときに和樹君が千夏と遊び始めたことをうちの両親は喜んだし、彼と付き合うことにも反対はしないのさ」
雅春が千夏の兄として、ちゃんと妹のことを考えていることに茜音は驚いた。
「わたしが参考になりますか?」
「俺達の町は本当に外部との関わりが少ない。正直さ、同じ町内で付き合おう物なら、たちまち知れ渡っちゃうよ。でも、千夏は和樹君のことが好きなんだろうし、和樹君もあの様子じゃ大丈夫だろう。あとは二人が堂々としていればいいんだが……、そこまでの強さはまだ千夏にはないだろうし。そこに茜音ちゃんがやってきたのさ。これは千夏の恋愛の先生になるってな」
ここまで言われてしまうと、茜音も笑うしかなかった。
「千夏ちゃんだって、恋してるんです。女の子って、恋すると強くなるんですよ?大丈夫。環境さえ調えれば、千夏ちゃんだってきっと」
「環境か……」
「そうですねぇ……」
「なぁ、茜音ちゃん。明日の予定なんだけど……、少し変更していいかな?」
雅春は何かを思いついたように尋ねた。