佳織の説明を聞き終わり、地図を拡大してみると、言われたとおり、川沿いのローカル線の線路は何本も存在している。
「とにかくさぁ、さっさと期末終わらないかなぁ」
「本当にねぇ」
それは三人とも同意見だ。しかも高校3年生ともなると、この冬から来春にかけての受験というものも無視はできなくなる。
また、大学を推薦で受ける可能性もあり、早い学校で2学期中に入試があるとすれば、この期末テストは内申点を決める最後の試験でもある。
茜音は自分の進路というものをまだ決めかねていた。もちろん、いろいろと夢はあるし、将来の職業についてもおぼろげに見えてきたところもある。
だだでさえそういう大事なことを決める時期に、いくら進んで手伝ってくれているとしても、茜音の心境としては、大切な友人を巻き込んで時間をとらせたくはない。
「本当に無理しないでいいからねぇ」
折に触れて二人には言い続けてきた。しかし、いつも返ってくる答えは同じだった。
「茜音を一人にして自分だけ勉強しろっての? そんなことできないよ。少なくともどっちかに落ち着くまではね」
「そうそう。頭の方は夏休みに佳織にたたき込んでもらうからさ。あんたの場合は人生かかってんだから、今はうちらのこと気にしている場合じゃないっしょ」
少なくとも、例の日までは二人とも勉強にシフトする気はないらしい。
「ありがとねぇ……」
「ん? なんか言った?」
思わず口をついて出た声に反応する菜都実。
「ううん、いつもありがとねぇって……」
「まーたそんなこと言ってる。あたしたちもいい息抜きになってんだから、気にしなさんな」
「うん。もう少しだからねぇ」
「おっし、こんなもんかなぁ」
時刻表を睨んでいた佳織が、数字でいっぱいになった紙を手にして欠伸をした。
「ほえぇ、できたのぉ?」
「お、できたか?」
二人はテーブルに戻った。
「でも、ものすごいスケジュールよ。茜音大丈夫かなぁ」
書き殴ったメモの中から必要な数字だけを抜き取り、別のルーズリーフに書き込んでいる。
「もう仕方ないよぉ。着替えもできるだけ持っていくし、車中泊がいくつもなければ……」
「それは大丈夫。ただ、予定より1日早く出ることになるけど大丈夫かな? まぁ、夜行バスだけど……」
「マジっすか?」
「うあぁ、夜バスかぁ……」
当初は佳織も朝1番の新幹線で青森まで行き、そこからと考えていたのだが、それではかなり遅くなってしまうことが判明した。
それをカバーするために使うしかないという話だったけれど。
「でもさぁ、いくらなんでも初日から夜行はきついぞ。なんか他の手はないんか?」
「あるっちゃぁあるけど……」
佳織は再び時刻表をめくる。
「まぁ、これでもいいかぁ。朝1番の飛行機で飛ぶってパターンね」
「羽田に何時よ?」
結果、7時45分の飛行機ならば、夜行列車で青森駅に到着するのと大差ないことがわかり、こちらで予定を組むことになった。
「しかし、今回は遠いなぁ」
「うん。でも、佳織の言うとおり、遠いところから最初に行かないと帰ってくるとき大変だから」
タブレットの画面から早速飛行機の予約をしている佳織を横目に見て、茜音はメモ書きに視線を戻す。
「大変だぁ……」
羅列された内容を改めて確認すると、次の旅の過酷さがすでに十分に感じられる。
「願わくば、これを全部回ることなく帰ってこられることね」
「うん、そうだねぇ……」
もちろん、茜音自身も最初から全部回る気はない。しかし、見つからなければそれをやるしかないのも分かっている。
「よし茜音、飛行機OK。一応、時刻表も最新版で確認して、明日学校で渡すわ」
「はぁい。それじゃぁしばらくはテスト勉強にしよぉ」
その日から、三人は旅のことは一時お預けとなり、目前に迫った3年生1学期の期末試験対策に追われることとなった。