「私、迷惑ばっかりかけた……。でもね……、今回のことで、私も……、和樹がいてくれなくちゃダメなんだって、……分かっちゃったの……。だから……、和樹にフラれたらもう一生立ち直れない……。それで怖くて……、一人になるのが怖くて……、帰る勇気が出なかった……。ごめんね……。情けない私でごめんね……」
本当は、もっと前にこの言葉を言っておかなければならなかったはず。
「バカだなぁ……千夏は……。俺だって同じなのにさ……」
「うん……。もう……、嫌いって言われるまでどこにも行かない……」
「そうしてくれるとありがたいけどな」
「うん……。そうだね。一人じゃなにもできないもん」
「ウソこけ。まさか一人で東京までくるなんて誰も思ってなかったぞ」
久しぶりに二人で並んで笑えた。これならもう大丈夫。
「さて、そろそろ行かないと間に合わないよぉ……」
それまで席を外していた茜音が後ろから声をかけてくる。
「もう大丈夫だよねぇ。今度来るときは二人で仲良く来てねぇ」
三人で出発ロビーに移動し、セキュリティゲートの前で立ち止まる。
「本当に今回はご迷惑かけました。今度、茜音ちゃんも二人になって遊びに来てください。それまでにはもう少し仲良くなれてると思いますし……」
「いまでも十分だと思うよぉ……。あ、そうそう。さっき落っことした荷物……。制服もクリーニングかけておいたってお母さんが言ってた」
千夏が赤くなった。すっかりその存在をすっかり忘れていたらしい。お土産と上京の時に千夏が着ていた制服と荷物も。
今日の千夏が着ている一式は茜音からの借り物だ。
「俺が持っていきます。服はあとで千夏から返させますから」
「ううん。いいよぉ。千夏ちゃんが気に入ってくれてるからそのまま使って。今回のこと思い出して仲良くいるためのお守りにでも……」
「ありがとう茜音ちゃん……。茜音ちゃんも頑張ってね。ずっと応援してるから……」
千夏は茜音の手をぎゅっと握った。涙もろいのは二人とも同じだ。
「幸せになってねって言うのはまだ少し早いけど……、もう大丈夫だよね。わたしもいい報告ができるようにがんばるねぇ……」
セキュリティゲートを抜け振り返りながら手を振った千夏に答えていた茜音の肩をたたく者があった。
「ほえぇ。二人ともどうしたのこんなところでぇ?」
「しまったぁ、一足遅かったかぁ……」
「菜都実の寝坊が悪いんでしょ。せっかく感動の再会シーンと千夏ちゃんを泣かせた犯人を見ようと思ったのに!」
どうやら二人は千夏が実家に帰る話を聞いて羽田までわざわざやってきたらしい。
「どうだった。仲直りできたの二人は?」
「うん、二人とも本当に素直だったよ……。もう大丈夫……」
「茜音……?」
再び送迎デッキに移動し、フェンスに手をついた茜音の様子は少し寂しそうに見えた。
「正直羨ましかったなぁ……。本当に二人とも素直だったんだもん……。もう心配いらないね」
「茜音だって、そうなれるよ。あんたほど彼のこと想ってるのは日本中探したってそういるもんじゃないでしょ……」
「そっかなぁ……。まだまだだと思うけど……」
飛行機を見ている茜音の横顔は、佳織にもその心境が伝わってくるようだった。
「茜音……、見返してやるんだよ?」
「ふん?」
「千夏ちゃんたちのカップル。そして茜音のこと笑いものにしてきた人たちのこと。茜音ならできるからさ……」
「うん……。頑張ってみるよぉ……」
「さぁて、茜音。今日の午後はヒマ?」
しんみりした空気を吹き飛ばすように、菜都実の声が響いた。
「うん。大丈夫だよ」
「せっかくここまで来たんだからさ、帰りちょっち寄り道して帰ろうって。佳織も賛成してるしさ?」
「うん、いいよ」
返事を聞く前に、すでに立ち上がっていた二人はもう出口の方へと進んでいた。
「茜音! 早く!!」
「千夏ちゃん……、がんばれぇ」
誰にも聞こえることはない。飛行場の騒音にかき消されてしまう小さな声だったけれど、再び歩き始めた親友にエールを送り茜音は二人の後を追った。