「だから君のために何でもする。君自身のために何でもすると言って欲しい。何か欲しいものがあるなら、俺の命に危険があるなら、人を傷つければ良い。君に俺の血や命を護れるだけの能力があるなら、その血も、命も差し棒のように奪ってくれても構わないのだよ。命を奪う機会なんてないはずの君の命が欲しいのだ。だから君の命の危険があるものまで護れるのは俺だけだ。それに君の命に危険があろうが何ろうが護れることは俺しか出来ない」
彼女は少し震えて、そして強い意志を持った瞳で俺を見上げた。
「俺はこうして生きて生きて生きて生き永く生きて生き続けて……。君が命と一緒に命を繋いでくれる……。だから俺は俺の生き方をしなくちゃならない。そのために必要なのは俺の命だ。マーサ婆さんの命を護るために、君の命の危険を取り払うために必要なのは俺の命だ。それが、俺の目的……。あなたの命が必要なのは俺の命。俺の命で君には君の命を護ることだと俺は思ってるんだ。だから、マーサ婆さんは俺にとって命の危険な存在なんかじゃなく、命の大切な人たちを救うために必要なことだと俺は思うんだ」
だから、君は君の生き方をして、それがあなたが望んだ俺の生き方なんだと、アルバートは切に思った。
マーサの怨念はぽつ、ぽつと雫を垂らして項垂れる。
「そうかい。もういいよ。アルバート。ここは私に任せてお行き」
そう言い終えぬ内にテンノウドーが警報を鳴らした。自家発電機の燃料タンクに火が回ったのだ。アルバートは物思いから覚め全力で逃げ出した。
モールが爆発炎上し、鉄骨が瓦解していく。それを高台から眺めていると煙が昇竜のようにのたうち回っていた。アルバートは少しだけ肩の荷が下りた。
モールとは商魂と物欲のるつぼだ。あすこに滞留していた雑念はルルティエの恰好の餌場になっていたのだろう。喰われて穢れた魂がマーサの無念を怨念に書き換えたのだ。末端は潰した。それは枝葉に過ぎないとしても本体を潰さねば世界は不幸のどん底へ落ちる。
第二章 終わりの始まり I -
1. 第一節「最後の勇者の物語I・終幕の序章II(中編)」
「あの……、この先は関係者以外立ち入り禁止となっております……」
第5区ショッピングモールは爆破されて炎上中である。そこを訪れた二人は怪しげだっただろうか? 否、怪しいどころではない。二人とも顔に火傷を負った包帯姿の少年だ。
警備員が声をかけるのも致し方ないことである。
警備員が止めに入るのは無理もない。だが、その瞬間、アルバートとカルエルの身体が淡い紫色の燐光に包まれて、その燐光が渦を巻き二人の姿を隠してしまう。次の瞬間には、二人の姿が跡形もなく消えてしまっていた。
(一体どこに行ったのだ……)
警備主任はしきりに頭を捻った。
アルバートが目覚めたとき、視界いっぱいに白い壁があった。
起き上がろうとしたが力が入らずまたベッドに横になった。頭がズキズキする。
ここは何処だ? 病院にしては薬品の匂いがない。
窓の向こうで木々が揺れていて爽やかな朝の訪れを予感させる。
病室の扉が開いた。入ってきたのはこれでもかというくらいに眉毛の長い女だった。女はこちらに目を向けると驚きに目を大きく開けた。そして口角を上げて、歯を剥き出して笑った。「すごい!『ふじみのじゅもん』が本当に効いたわ!」
失礼千万な女を突き飛ばして長身のプエルトリコ系青年が叱りつける。「勇者様に無礼だぞ」
そして非礼を詫び自己紹介を始めた。
「申し訳ありません。私は、スコットランド公国で公宮騎士団団長を勤めておりますバルバトス=ヴィノグラートと申します。」
アルバートは、まだ状況を把握しきれずにいた。
「それで、俺は何故ここにいるのですか?」
「はい、我々は現在、聖剣エクスカリバーを探し求めて各地を旅しているのですが、実は、先日、我々の旅の途中で、あなた様が倒れているのを発見したのです。最初は、盗賊団に拐われたのかと思いましたが、よく調べてみると、どうも様子がおかしい。そこで、とりあえず、保護したという次第でございます。ご気分はいかがでしょうか? もし、よろしかったら我々に同行していただいても構いませんが、どういたしましょう」
「えーっと、じゃあ、お願いします」
「はい、承知しました。では、早速ですが、出発の準備が出来次第、バーグマン国王と会見していただきます。何しろルルティエの巣を叩くためにはイングランド王国に入らねばなりません。しかし、我々スコットランドは領土問題を抱えておりまして」
彼女は少し震えて、そして強い意志を持った瞳で俺を見上げた。
「俺はこうして生きて生きて生きて生き永く生きて生き続けて……。君が命と一緒に命を繋いでくれる……。だから俺は俺の生き方をしなくちゃならない。そのために必要なのは俺の命だ。マーサ婆さんの命を護るために、君の命の危険を取り払うために必要なのは俺の命だ。それが、俺の目的……。あなたの命が必要なのは俺の命。俺の命で君には君の命を護ることだと俺は思ってるんだ。だから、マーサ婆さんは俺にとって命の危険な存在なんかじゃなく、命の大切な人たちを救うために必要なことだと俺は思うんだ」
だから、君は君の生き方をして、それがあなたが望んだ俺の生き方なんだと、アルバートは切に思った。
マーサの怨念はぽつ、ぽつと雫を垂らして項垂れる。
「そうかい。もういいよ。アルバート。ここは私に任せてお行き」
そう言い終えぬ内にテンノウドーが警報を鳴らした。自家発電機の燃料タンクに火が回ったのだ。アルバートは物思いから覚め全力で逃げ出した。
モールが爆発炎上し、鉄骨が瓦解していく。それを高台から眺めていると煙が昇竜のようにのたうち回っていた。アルバートは少しだけ肩の荷が下りた。
モールとは商魂と物欲のるつぼだ。あすこに滞留していた雑念はルルティエの恰好の餌場になっていたのだろう。喰われて穢れた魂がマーサの無念を怨念に書き換えたのだ。末端は潰した。それは枝葉に過ぎないとしても本体を潰さねば世界は不幸のどん底へ落ちる。
第二章 終わりの始まり I -
1. 第一節「最後の勇者の物語I・終幕の序章II(中編)」
「あの……、この先は関係者以外立ち入り禁止となっております……」
第5区ショッピングモールは爆破されて炎上中である。そこを訪れた二人は怪しげだっただろうか? 否、怪しいどころではない。二人とも顔に火傷を負った包帯姿の少年だ。
警備員が声をかけるのも致し方ないことである。
警備員が止めに入るのは無理もない。だが、その瞬間、アルバートとカルエルの身体が淡い紫色の燐光に包まれて、その燐光が渦を巻き二人の姿を隠してしまう。次の瞬間には、二人の姿が跡形もなく消えてしまっていた。
(一体どこに行ったのだ……)
警備主任はしきりに頭を捻った。
アルバートが目覚めたとき、視界いっぱいに白い壁があった。
起き上がろうとしたが力が入らずまたベッドに横になった。頭がズキズキする。
ここは何処だ? 病院にしては薬品の匂いがない。
窓の向こうで木々が揺れていて爽やかな朝の訪れを予感させる。
病室の扉が開いた。入ってきたのはこれでもかというくらいに眉毛の長い女だった。女はこちらに目を向けると驚きに目を大きく開けた。そして口角を上げて、歯を剥き出して笑った。「すごい!『ふじみのじゅもん』が本当に効いたわ!」
失礼千万な女を突き飛ばして長身のプエルトリコ系青年が叱りつける。「勇者様に無礼だぞ」
そして非礼を詫び自己紹介を始めた。
「申し訳ありません。私は、スコットランド公国で公宮騎士団団長を勤めておりますバルバトス=ヴィノグラートと申します。」
アルバートは、まだ状況を把握しきれずにいた。
「それで、俺は何故ここにいるのですか?」
「はい、我々は現在、聖剣エクスカリバーを探し求めて各地を旅しているのですが、実は、先日、我々の旅の途中で、あなた様が倒れているのを発見したのです。最初は、盗賊団に拐われたのかと思いましたが、よく調べてみると、どうも様子がおかしい。そこで、とりあえず、保護したという次第でございます。ご気分はいかがでしょうか? もし、よろしかったら我々に同行していただいても構いませんが、どういたしましょう」
「えーっと、じゃあ、お願いします」
「はい、承知しました。では、早速ですが、出発の準備が出来次第、バーグマン国王と会見していただきます。何しろルルティエの巣を叩くためにはイングランド王国に入らねばなりません。しかし、我々スコットランドは領土問題を抱えておりまして」