地元は、十年もかからずに近代的な都会へと変貌を遂げた。

 藤野の会社がこじんまりと見えるほど、大きな建物が周囲に密集した。

 藤野家は信頼もあったので仕事に困らなかったが、古くからの取引き先の飲食店はどんどん閉店していった。ラーメン屋も饅頭屋も焼鳥屋も土地を買収され、見たこともないほど立派な大型ショッピングセンターの一部となった。

『お前に、苦労はさせられないよ』

 思い出される父は、いつでも悲しいほどに優しかった。

 藤野という姓を持ったまま実家を飛び出し、駆け落ちした母と貧しい生活を送りながら、ようやく一つの会社を立ち上げた彼は、仕事を理由に家族との時間を奪われることを一番恐れていた。

 温かみのある会社、というのが香澄の父の願いだった。

 若かった社員たちはそれぞれ家庭を持ち、両親が三十歳の頃にようやく香澄が生まれた。

 引っ込み思案の香澄は、母の後ろに隠れて、皆が談笑している様子を見ていることが好きだった。それだけで、自分も幸せな気持ちになれた。