馬車の中でブレスはポケットからネックレスを取り出すと、それをじっと見つめた。

「リーズ……」

 そのネックレスはリーズが母親の形見として昔大事にしていたものだった。
 だが、先月に階段で足を滑らせて頭を打ってからは記憶を失ってしまい、そのネックレスが母親の形見であることはおろか、母親のことも忘れてしまっているようだった。
 ブレスは幼い頃リーズが生まれたときのことを思い出した──


『ブレス、あなたは今日からお兄ちゃんよ。この子を守るの』
『守る?』
『ええ、この子にはいつか私のネックレスをあげたいなって思ってるけど、かわりにあなたにはこれをあげる』

 そう言って二人の母親は優しく微笑みながらブレスに指輪を一つあげた。

『指輪?』
『これはきっとあなたと、そしてここにいるリーズを守ってくれるわ。二人はいつも一緒に助け合って生きていくのよ』