待て待て待て。

 今現在一番気になっているのは多分、大輝なのだ。
 好きな人がいるのかと聞かれたあの日から、なんとなく気になる存在になっている。
 それでも最近は、良い部活仲間という雰囲気に戻ってきたところだった。
 ここで当てられて変に気まずくなったら困る。焦っていた。

「へぇ……、じゃあ、当ててみてよ」

 それなのに、私は無駄に余裕ぶって返事をしていた。
 何を言っているのだ。かっこつけてスカした返事をしている場合じゃない。

「いいよ。大藤の好きな人は……」

 大輝は私の声にすぐに反応した。
 ドッドッと心臓が急に大きく鳴り始める。なぜか息を止めて、言葉の続きを待った。

「一個上のギターの先輩だ」

 自信満々にそう言った大輝の声に、止めていた息を静かに吐く。

「あはは、違うよ。確かにカッコいいけどね」
「そうなの? 絶対当たってると思ってたのに」

 本当に悔しそうに大輝はそう言うと、またいつものようにくだらない話をし始める。
 それを聞きながら、私はあることに気がついていた。

 私はホッとしている。バレなくて良かったと思っている。

 どうして安心しているのだろう。好きな人はいないはずなのだから、バレるなんてことあるわけない。


 それは、つまり……。

 受話器を伝って耳に響く大輝の声を聞きながら、私は自分の中に芽生えた恋心を自覚したのだ。