待ちに待った夏休み。
 私は電車の中にいた。

 行先は田舎の海水浴場。そこにあるのは海だけだ。
 しかし、このイベントは男女混合一泊二日の小旅行。海さえあれば、充分過ぎるほど楽しめる。
 唯一残念な点があるとすれば、アルバイトや家の都合で日程の折り合いがつかず数人の日帰り組がいることだろう。

「花火買ってきたよ! 打ち上げと手持ちと……」
「うわ、ロケット花火あるじゃん。絶対お前、俺に向かって打つだろ」

 まだ着いてもいないのに、既に車内は騒がしかった。その賑やかな電車のボックス席で、一人ぼんやりと外を見ていた。

 今日の参加者の中には大輝もいる。でも、彼はバイトの都合で日帰り組。

「全員で泊まれれば良かったのにねー。残念」


 本当に、全員で泊まれれば良かったのに。

 誰かがそう言っているのが聞こえて、心の中で同意していた。