叱られてもなおチラチラと大輝の様子を伺いながら思う。


 この前読んだ少女漫画みたいに、大輝も誰かの頭を撫でることがあるのだろうか。

 もし、そうなら……。



「真面目にやってる? また下がってるよ。集中できないならランニング行ってきて」

 苛立った先輩の声が耳に響く。

「まじかよ……」
「大藤、頼むよ……」

 私のせいで巻き込まれてしまった他のボーカリストたちが、げんなりした顔で私を見る。

「ごめん。埋め合わせ、絶対するから……」

 両手を合わせて謝って、ランニングコースを走り始める。

 軽音楽部の部室から離れるにつれて、酸素濃度が元に戻る。意識もはっきりとしてきた。
 普段と何も変わらないのだ。体調が悪いわけでもない。

 薄暗くなってきた校庭を照らす夜間照明が、バチンと音をたてて点くのが見えた。
 それとほぼ同時に、軽音楽部の誰かが奏でるポップスが聞こえてくる。
 最近テレビでよく流れているから聞いたことがあった。アップテンポで明るい曲調なのに、叶わない片思いを歌った切ない歌詞が印象的な歌だ。


 ……片思いか。

 そう思った瞬間、また私の酸素濃度は薄くなる。
 走るためにはそれだと少し足りなくて、思わず立ち止まってしまう。

「あいみ! しっかり走らないとランニング延ばすよ!」

 先輩の声が響いて、慌ててまた走り出す。



 何も変わらないはずなのに、私だけやっぱりなんだか調子が悪い。