これは、とある女の子が推しに捧ぐ物語。

 私と先生の出会いは、至って普通で運命的でもなんでもなかった。担任でもなく、副担任でもない。学年所属でもなく、ただの地学教師と生徒。
 それ以上でもそれ以下でもない。週に3回授業を受ける。
 ただそれだけ。
 そんな関係のまま、半年が過ぎた。
 それなら、どうして推しになったのか?
 その前にこの半年を紹介させてほしい。

 最初は、特別推していたわけではなかった。けれど初めて会った時から、可愛いなとは思っていた。先生は、40代半ばくらいの女性。名前は「桜庭(さくらば) (よる)」。夜という名前が信じられないくらい似合っている。一緒に学校で天体観測をしたことがあるが、望遠鏡を覗く姿は、それはそれは美しかった。
 実は、桜庭先生を一緒に推している友達がいるのだが、「旦那さんの苗字がここまで似合う人はいない」とよく話す。

 桜庭先生に対する第一印象は、「少し変わった人」だった。私はよく読書をするのだが、先生も読書好きらしい。仲良くなれるかもしれないと思った。しかし、系統が違った。私は恋愛小説を読むことが多いが、桜庭先生は地図片手に山岳小説を読むと言っていた。
 …山岳小説って何かって?私も初めて知ったのだが、簡単に言うと登山家の経験などを綴った本だ。桜庭先生は登山家たちがどこのルートを通ったのか、地図で確認しながら読み進めていくらしい。
 ソファーに座って読書をしている姿を想像するだけで…。可愛くないわけがない。


 1番初めの授業の時、少しだけ大学生の時の話をしてくれた。

 「私の周りには宇宙関係の研究をしたかったにも関わらず、様々な理由から地質学を学んでいる人がたくさんいました。そんな中、教授が言ったんです。
 ー地に足つけて勉強しなさいー
…おもしろくない?」

 このとき、教室にいた誰もが笑っていなかった。その様子を見て、先生は続けた。

 「えー。だって宇宙ばかり見てきた人たちに、地に足着けなさいだよ。すごいセンスいいと思わない?」

 みんな無反応だった。ここで1つ言わせて欲しいのは、私は心の中では面白いと思っていたということ。教授のセンスはなかなかに良いと思った。それに、それを楽しそうに話す桜庭先生の笑顔がとても可愛いとも。