「楊花、紫蘭。世話になった」

 翌日、楊花と紫蘭は晧月に呼び出された。晧月の膝の上には、大きくお腹が膨らんだ粋白が何も無かったかのように鎮座していた。

「報酬を出そう」
「有難うございます」
「あ、有難うございますっ」

 楊花と紫蘭は深々と頭を下げる。

「他に願いはあるか?」
「いいい、いえ。何もありません」

 紫蘭は緊張で声が上擦っている。それを秋陽はくすりと笑った。

「楊花は何か無いのか?」
「私は……」

 正直、何も考えていなかった。楊花は目を踊らせた後、静かに答える。

「平穏が欲しいです」
「平穏か……。難しい願いだな」

 チリンと鈴の音がした。粋白は帰ってきて以来、楊花の助言で、首に鈴をつけ、何処にいるか分かるように工夫されていた。
 その音が、楊花前でピタリと止まる。
 楊花はゆっくりと顔を上げた。フワフワの白い癒しがそこにはいる。粋白は顔を上げた楊花にこれでもかと頭をぶつけ匂いを付け始めた。
 楊花は優しく微笑んだ。ニャーと粋白が呼応する。
 晧月は優しく微笑む楊花の姿に微かに赤面した後、閃いたと言わんばかりに発言する。

「楊花、国獣に仕えろ」
「国獣にですか?」
「あぁ、粋白も喜ぶ」

 そして、私もと言いかけたが、晧月は止める。

「国獣の召使いだ。これで、平穏に過ごせるだろう」

 果たして、そうだろうか。無理難題を押し付けられないだろうか。
 言いようの無い不安があったが、またあの日常には戻りたくなかった。楊花の答えは一択だ。

「謹んで、お受け致します」