「だいぶ腹が大きくなってきたな。具合は大丈夫か、キュリティ」
「はい、おかげさまで健康に過ごさせていただいております」
「まだ出産までは気を抜けないけどね」
その後しばらくして、私のお腹も結構大きくなってきた。
みんなのおかげで母子ともに健康だ。
オールドさんの見立てでは、数か月後には出産らしい。
「それで、子どもの性別はもうわかるのか?」
「まだわからないよ。まったく、ディア坊主はそそっかしいね」
「オールド、これでも私はキュリティと子どもを心配しているのだ」
ディアボロ様とオールドさんのやり取りも、すっかり日常の風景に溶け込んでいた。
「じゃあ、アタシはそろそろ王宮に戻るよ。片付けておかないといけない仕事があるからね」
そう言って、オールドさんは部屋から出て行った。
ディアボロ様と二人っきりになる。
「あの、今日はバーチュさんはいないんですか? 朝少し見ただけで、それからはいらっしゃらないみたいですが」
「ああ、そのことなんだが……キュリティに伝えておかねばならないことがある」
「は、はい、なんでしょうか?」
ディアボロ様は真剣な顔で椅子に座りなおした。
つられて私も姿勢を正す。
「君の世話係として派遣していたバーチュだが……」
「はい」
なぜかディアボロ様は言いよどんでいる。
なかなか続きを話そうとしなかった。
「あ……」
「あ?」
どうしたんだろう。
ディアボロ様は本当に言いにくそうだ。
もしかして、バーチュさんは今日で辞めちゃうとか?
きっと、そうかもしれない。
だったら悲しいな。
でも、彼女にも自分の人生が……。
「…………あれは私だ」
「……………………え?」
あまりにも予想外な衝撃の事実を告げられ、頭が固まった。
ディ、ディアボロ様が……バーチュさん? ど、どういうこと?
私が石像みたいになっていると、ディアボロ様が慌てて説明を続けた。
「わ、私は変装が得意でな。もちろん女装もできる。バーチュに化けていたのは、君が心配で様子を伺いに来ていたのだ」
「そ、そうだったのですか。まさか、バーチュさんがディアボロ様だとは思いませんでした……ということは、私の今までの行いもディアボロ様は知っているということですか?」
「ああ、もちろん知っている。騙すような真似をして悪かった」
今になってわかった。
彼女がじっ……と見てきたのは、私の様子を見るためだったのか。
「しかし、どうしてそのようなことをされたのですか?」
「私がいては休めるものも休めなくなりそうだからな。ほら、この顔だ。君にも赤ん坊にもよからぬプレッシャーを与えるんじゃないかと思ってな」
ディアボロ様は自分を指しながら苦笑いしている。
傷ついたりして怖い顔が、私に圧力を与えると思っていたらしい。
そんなことないのに。
「私にとっては、とても素敵なお顔でございますわ」
「ほ、本当か?」
ディアボロ様はハッとしたように私を見る。
「初めてお会いしたときは怖く感じましたが、ディアボロ様の優しさを知ってからは怖い気持ちは無くなりました。ディアボロ様はお優しい方です」
「キュリティ……」
「もし、今後も怖いと言う人がいたら、ディアボロ様は優しい方だと私が伝えます」
「……そうか」
突然、ディアボロ様は膝をついた。
「ディ、ディアボロ様!? どうされたのですか!?」
「私は君に出会えて変われたんだ」
お部屋の空気が変わったような気がした。
ディアボロ様は静かに言葉を紡ぐ。
「私は若くして皇帝になっただろう? 常に周囲からのプレッシャーに押しつぶされそうになっていたんだ。だから、自分にも他人にも過剰なほど厳しくあたってきた。気がついたら、“極悪非道の皇帝”という二つ名がつくほどに……」
「……」
「そして、私はそれを変えようともしなかった。皇帝としてのプライドや忙しさを言い訳にしてな」
恐怖の象徴とされてきたそのお顔には、諦めにも似た笑みが浮かんでいた。
ディアボロ様の心の内を初めて知った。
「だが、妊娠しているにも関わらず健気に頑張る君を見ていて、私もこうありたいと思うようになったんだ。君のおかげで大切な物を取り戻せたような気がする」
「ディアボロ様……私はなんと申し上げたらいいのか……」
大事な人の気持ちを思うと涙が零れそうだった。
「キュリティ、私からお願いがある。私と……正式な夫婦になってもらえないか?」
その言葉を聞いた瞬間、私はハッキリと自分の気持ちを自覚した。
<見破りの目>は魔法を見破る。
でも、愛の魔法は見破れないのかもしれない。
ましてや自分にかかった魔法は……。
「はい……喜んで」
差し出されたその手をしっかりと握る。
がっしりして力強いディアボロの手は温かかった。
自然と、大きくなってきたお腹を一緒に優しく撫でる。
めでたく結ばれた私たちを祝うように、元気よく蹴り返された。
「はい、おかげさまで健康に過ごさせていただいております」
「まだ出産までは気を抜けないけどね」
その後しばらくして、私のお腹も結構大きくなってきた。
みんなのおかげで母子ともに健康だ。
オールドさんの見立てでは、数か月後には出産らしい。
「それで、子どもの性別はもうわかるのか?」
「まだわからないよ。まったく、ディア坊主はそそっかしいね」
「オールド、これでも私はキュリティと子どもを心配しているのだ」
ディアボロ様とオールドさんのやり取りも、すっかり日常の風景に溶け込んでいた。
「じゃあ、アタシはそろそろ王宮に戻るよ。片付けておかないといけない仕事があるからね」
そう言って、オールドさんは部屋から出て行った。
ディアボロ様と二人っきりになる。
「あの、今日はバーチュさんはいないんですか? 朝少し見ただけで、それからはいらっしゃらないみたいですが」
「ああ、そのことなんだが……キュリティに伝えておかねばならないことがある」
「は、はい、なんでしょうか?」
ディアボロ様は真剣な顔で椅子に座りなおした。
つられて私も姿勢を正す。
「君の世話係として派遣していたバーチュだが……」
「はい」
なぜかディアボロ様は言いよどんでいる。
なかなか続きを話そうとしなかった。
「あ……」
「あ?」
どうしたんだろう。
ディアボロ様は本当に言いにくそうだ。
もしかして、バーチュさんは今日で辞めちゃうとか?
きっと、そうかもしれない。
だったら悲しいな。
でも、彼女にも自分の人生が……。
「…………あれは私だ」
「……………………え?」
あまりにも予想外な衝撃の事実を告げられ、頭が固まった。
ディ、ディアボロ様が……バーチュさん? ど、どういうこと?
私が石像みたいになっていると、ディアボロ様が慌てて説明を続けた。
「わ、私は変装が得意でな。もちろん女装もできる。バーチュに化けていたのは、君が心配で様子を伺いに来ていたのだ」
「そ、そうだったのですか。まさか、バーチュさんがディアボロ様だとは思いませんでした……ということは、私の今までの行いもディアボロ様は知っているということですか?」
「ああ、もちろん知っている。騙すような真似をして悪かった」
今になってわかった。
彼女がじっ……と見てきたのは、私の様子を見るためだったのか。
「しかし、どうしてそのようなことをされたのですか?」
「私がいては休めるものも休めなくなりそうだからな。ほら、この顔だ。君にも赤ん坊にもよからぬプレッシャーを与えるんじゃないかと思ってな」
ディアボロ様は自分を指しながら苦笑いしている。
傷ついたりして怖い顔が、私に圧力を与えると思っていたらしい。
そんなことないのに。
「私にとっては、とても素敵なお顔でございますわ」
「ほ、本当か?」
ディアボロ様はハッとしたように私を見る。
「初めてお会いしたときは怖く感じましたが、ディアボロ様の優しさを知ってからは怖い気持ちは無くなりました。ディアボロ様はお優しい方です」
「キュリティ……」
「もし、今後も怖いと言う人がいたら、ディアボロ様は優しい方だと私が伝えます」
「……そうか」
突然、ディアボロ様は膝をついた。
「ディ、ディアボロ様!? どうされたのですか!?」
「私は君に出会えて変われたんだ」
お部屋の空気が変わったような気がした。
ディアボロ様は静かに言葉を紡ぐ。
「私は若くして皇帝になっただろう? 常に周囲からのプレッシャーに押しつぶされそうになっていたんだ。だから、自分にも他人にも過剰なほど厳しくあたってきた。気がついたら、“極悪非道の皇帝”という二つ名がつくほどに……」
「……」
「そして、私はそれを変えようともしなかった。皇帝としてのプライドや忙しさを言い訳にしてな」
恐怖の象徴とされてきたそのお顔には、諦めにも似た笑みが浮かんでいた。
ディアボロ様の心の内を初めて知った。
「だが、妊娠しているにも関わらず健気に頑張る君を見ていて、私もこうありたいと思うようになったんだ。君のおかげで大切な物を取り戻せたような気がする」
「ディアボロ様……私はなんと申し上げたらいいのか……」
大事な人の気持ちを思うと涙が零れそうだった。
「キュリティ、私からお願いがある。私と……正式な夫婦になってもらえないか?」
その言葉を聞いた瞬間、私はハッキリと自分の気持ちを自覚した。
<見破りの目>は魔法を見破る。
でも、愛の魔法は見破れないのかもしれない。
ましてや自分にかかった魔法は……。
「はい……喜んで」
差し出されたその手をしっかりと握る。
がっしりして力強いディアボロの手は温かかった。
自然と、大きくなってきたお腹を一緒に優しく撫でる。
めでたく結ばれた私たちを祝うように、元気よく蹴り返された。