僕と新城は祓い屋を営んでいるけれど、その本分は学生だ。
深夜に出ていようと当然、朝になれば学校に行かなければならない。
僕の通う高校は地元においては中の上というレベル。
自分で言うのもなんだけれど、真面目な学生なので出席日数さえちゃんと獲得できていれば留年の心配はない。
緊急の用事等がない限り僕は通学することにしている。
通学路を歩いていると僕と同じようにブレザータイプの制服姿の学生の姿がちらほらとみえてきた。
そして、僕を見てヒソヒソと話し込んでいる人達の姿も。
ほんの二カ月ほど前に自分の人生を賭けた出来事があった。
その出来事が噂として独り歩きして、二カ月経った今もこうして噂の的となっている。
噂とはいえ、見ず知らずの人に後ろ指を指されたりすることはあまり気分が良いものじゃない。
「おはよう、雲川」
溜息を吐きそうになった所で剣道部に所属している芥川君が声をかけてくる。
「おはよう、芥川君」
彼とは友達といえるほどの関係ではないけれど、あの出来事があった後も変わらずに接してくれる数少ない人だ。
「噂など気にする必要はない。どうせ、真意を探ろうとしない連中の暇つぶしだ」
「ありがとう。気にしないようにはしているんだけど、どうも落ち着かなくて」
「雲川は優しいからな」
「そんな……あれ、朝練は?」
芥川君は一年でありながらも剣道の腕は全国に通用するレベルの持ち主だ。
本人の話によると父が剣道をやっていた影響を受けて彼も剣道をやっているらしい。
他の一年生が練習試合もまだの中で一人だけ先輩達と混じってハードな練習を受けていると聞いた。
「道場が点検の為に使用できなくてな。朝練はしばらくおやすみ。放課後に素振りなどの基礎練習はするから竹刀は持ってきている」
「大変だね。道場が使えないなら休みにすればいいのに、練習も大変なんでしょ?」
「俺にとって日常の一部になっているから苦ではないよ」
それから僕と芥川君は他愛のない話をしながら校門を潜り下駄箱で別れる事になる。
「なぁ、雲川」
「なに?」
「その、二カ月前にあんなことがあったから教室へ戻るのは辛いかもしれないが……落ち着いたらまた、戻って来いよ」
どこか緊張しながら心配してくれている芥川君の気持ちに嬉しく感じた僕は頷く。
「ありがとう、芥川君」
「あぁ、じゃあな」
彼がクラスメイト達のいる教室へ向かうと僕は保健室の方へ向かう。
二カ月前に起こった出来事から僕はクラスメイト達と離れて保健室の近くにある特別教室に在籍している。
特別教室は様々な理由でクラスに馴染めない生徒や問題を抱えている者達が集まる場所で生徒の一部から問題児クラスと言われていた。
僕が特別教室のドアを開けると床に転がる細長い芋虫がいる。
「新城、学校に来てまで眠る事ないでしょ?」
もそもそと動いた芋虫、もとい寝袋に入っていた新城がアイマスクを取って目を開ける。
いつも思うけれど、アイマスクをして、その下に眼帯がついたままで寝づらくないのだろうか?
「んぁ?あぁ、お前か」
僕の顔を見ると彼は再びアイマスクを装着しようとした。
「ちょっと、なんで僕の顔を見て寝るのさ」
「まだ始業時間じゃないからだ。元優等生サマは余裕をもって登校しているからな。何より、眠い」
「それは僕も同じなんだけど、まぁいいや」
特別教室は15個程、机と椅子が置かれているけれど、利用者は僕と新城のみ。
気に入っている窓側の席へ僕は座る。
いつもならそのまま静寂が教室を包み込むんだけど、今日は違った。
「失礼しまーす」
教室のドアが開いて一人の女子生徒が入ってくる。
肩にまで届きそうな髪は細くきらきらと金色に光っていた。
ハーフだろうか、白い肌に緑色の瞳、整った顔立ちはまさに美少女と言われてもおかしくはない。
「え、ミノムシ?」
少女は教室で寝ている新城の姿に驚いていた。
「えっと、この教室に何か用事?」
起きる気配のない新城の代わりに僕が尋ねることにした。
「この教室に新城凍真って人がいるって聞いたんだけど、アンタ?」
「違う違う、新城はそこで寝ている奴」
「え、ミノムシが?」
「まー、このミノムシが」
驚いたように寝袋に入っている新城の頭を突く少女。
あれ、この子。
「ところで、キミは?」
誰なのか尋ねたら急に鋭い目で睨まれる。
何か失礼な事を言ったかな?
「なんで、アンタに自己紹介しないといけないの?」
「え?ダメだった?」
「……別に、そういうわけじゃないけど」
睨んでいた目がちらちら揺れたと思うと小さくため息を零して。
「日本史の工藤先生が特別教室に新城凍真っていうチビが――」
「だぁああああああれが、チビだぁああああああああああああああああああああ」
あ。
「うるさ!?」
ミノムシ状態だった新城が目を見開いてグワッと起き上がる。
禁句を言われた新城は驚いている少女へ飛び掛かろうとするが間一髪、伸ばした手で拘束することに成功。
「離せ!俺をチビ呼ばわりした奴をボコる!」
新城は高校生でありながら150センチと身長が低い。
そして、身長が低いことを指摘されるとキレてしまう。
こうなった新城は誰かれ構わず喧嘩を売ってしまうので要注意だ。
「ダメだって、相手は女の子なんだから」
「しるかぁああああああ!」
「え、なに、事実を言われて怒っているの?器が小さい」
「てめぇええええええええ!」
「落ち着いてって!キミもお願いだから不用意に煽らないで!」
さらに暴れようとする新城を抑えていると教室のドアが開く。
「失礼するよ。あ~、やっぱりこうなっていたか」
白髪でメガネをかけた老人が入ってくる。
この学校で日本史を担当している工藤先生。
「暴れるほど元気があることは嬉しいことだが、話が進まないからそろそろ落ち着いてくれるかな?」
彼は工藤先生、この学校で日本史の授業を受け持っており特別教室の生徒達の面倒をみている。
そして、普通の人は知らない事だが彼も僕達と同じ祓い屋である。
今は高齢ということもあって引退していると本人は言っているけれど、彼を尊敬、頼りにしている人達は今も大勢いるという。
「チッ」
新城も工藤先生に頭があがらない。
前に聞いたけれど、過去に助けてもらった恩があるという。
乱暴に着席した新城をみて、工藤先生は女子生徒も座るように促す。
「彼女はC組の瀬戸ユウリさん。キミ達と同じ一年生だ」
僕らと対面する形で座ると工藤先生が説明を始める。
「あ?瀬戸?」
「なによ。文句あるの?」
苗字に反応した新城に鋭く睨む瀬戸さん。
「別に~」
「話を続けるけど、彼女は問題を抱えていてね。それを君たちに何とかしてほしいのさ」
「問題?」
「詳細は彼女からきいてくれるかな?僕は授業があるから」
「え、工藤先生!」
教室を出ようとする工藤先生に瀬戸さんが慌てて声をかける。
「後は若い者同士でよろしく」
ひらひらと手を振ると瀬戸さんが止めるのも聞かずに教室を出ていく。
気分屋というか、奔放なところがある工藤先生に置いて行かれた瀬戸さんは酷く戸惑っていた。
「えっと、瀬戸さん」
「なによ」
睨まれた僕は少し臆しながらも話を進める事にした。
「工藤先生に相談した内容ってなんなのかな?」
「アンタ達が頼りになるの?」
「えっと、まぁ、信じてもらえるかわからないけど」
「信じられるわけないでしょ!」
机に手を叩きつけながら瀬戸さんは叫ぶ。
「あんなことがあって工藤先生に相談したら助けてくれるのかと思ったら問題児ばかりが集められた特別教室に連れてこられるなんて!」
「いや、あの、その、落ち着いてよ。瀬戸さん」
怒鳴る彼女を宥めようとする僕に対して新城は面倒そうに顎へ手を置いて傍観して助けてくれない。
「工藤先生も面倒だからアンタ達に押し付けたんだ。アタシの話なんて最初から信じていなかったのよ!もう、アタシ」
「ほい」
彼女が最後の言葉を言い切る前に立ち上がった新城がポケットから一枚の札を取り出して何もない空間、正確に言えば瀬戸さんの肩当たりへ投げつけた。
札は空中で何かに当たるとボッ!と燃え出す。
「きゃっ!」
突然の事に驚いて離れる瀬戸さん。
緑色の炎を噴き上げて消えるお札。
「逃げたみたいだな」
「そう、だね」
「ちょっと、何の話よ!?アタシにも説明して!」
「アンタの肩に怪異がいたから祓った」
「は?怪異?」
困惑した表情を浮かべる瀬戸さん。
僕と新城、多分、工藤先生も気づいていたと思うけれど、教室に入ってから彼女の肩辺りにずっと低級の怪異が憑いていた。
新城は祓いの札を用いてその怪異を祓ったんだ。
「初心者レベルのアンタに説明するなら妖怪やら悪霊の事だよ」
「ば、バカにしないでよ!そんなものいるわけがないでしょ!やっぱり、アタシ、騙されて」
「じゃあ、さっきの炎はなんだ?」
「手品か何かでしょ!大体、こんな科学が発展した時代に妖怪とか、ゲームのやりすぎ!」
まぁ、こうなるよね。
怪異に遭遇した本人ですらアレが何なのかという理解が追い付かない。
説明できないまま色々な事が起こって追い詰められていくのが怪異の厄介なところでもある。
おそらく瀬戸さんはダメ元で頼りになる工藤先生へ相談して碌な説明もないまま、ここへ連れてこられたのだろう。
先生なんだから、そこはちゃんとやってほしいなぁ。
「じゃあ、帰れよ」
面倒という風に新城は出口を指す。
「信じられないというなら帰れよ。だけどな、お前が抱えている問題、他の人に話しても信じてもらえないだろうよ。これから多くの人に相談しても解決の糸口すら見つからず、アンタはずっと、その問題を抱えて生活することになる。それでもいいならドアを開けて去るといい。伝えておくが一度、断ったら俺は二度と引き受けないからな。それでもいいなら帰ってくれ」
怪異関係の依頼者は冷静さを欠いている。
そういう人達の助けになる為に祓い屋はいるけれど、すぐに信じて頼ってくれるわけじゃない。
酷だけれど、こういう突き放したような形の態度をとることで僕達だけがなんとかできるんだぞということをアピールする方法もある。
極端な方法だけど効果的だ。
「瀬戸さん、僕達の事をすぐに信じられないって気持ちはあると思う。でも、さっきのアレをみて信じられないというのなら、悪いけど、僕達は力になれない」
似たような経験がある僕としては、このまま放っておくことはできないから彼女へ優しく伝えてみる。
新城の言葉に少しだけ冷静さを取り戻したのか敵を見るような目が少し薄まり、不安に揺れる目で瀬戸さんは尋ねる。
「助けてくれるの?」
「勿論、その為に俺達はいるんだ」
不安に揺れる瀬戸さんへ新城はすぐに答える。
深夜に出ていようと当然、朝になれば学校に行かなければならない。
僕の通う高校は地元においては中の上というレベル。
自分で言うのもなんだけれど、真面目な学生なので出席日数さえちゃんと獲得できていれば留年の心配はない。
緊急の用事等がない限り僕は通学することにしている。
通学路を歩いていると僕と同じようにブレザータイプの制服姿の学生の姿がちらほらとみえてきた。
そして、僕を見てヒソヒソと話し込んでいる人達の姿も。
ほんの二カ月ほど前に自分の人生を賭けた出来事があった。
その出来事が噂として独り歩きして、二カ月経った今もこうして噂の的となっている。
噂とはいえ、見ず知らずの人に後ろ指を指されたりすることはあまり気分が良いものじゃない。
「おはよう、雲川」
溜息を吐きそうになった所で剣道部に所属している芥川君が声をかけてくる。
「おはよう、芥川君」
彼とは友達といえるほどの関係ではないけれど、あの出来事があった後も変わらずに接してくれる数少ない人だ。
「噂など気にする必要はない。どうせ、真意を探ろうとしない連中の暇つぶしだ」
「ありがとう。気にしないようにはしているんだけど、どうも落ち着かなくて」
「雲川は優しいからな」
「そんな……あれ、朝練は?」
芥川君は一年でありながらも剣道の腕は全国に通用するレベルの持ち主だ。
本人の話によると父が剣道をやっていた影響を受けて彼も剣道をやっているらしい。
他の一年生が練習試合もまだの中で一人だけ先輩達と混じってハードな練習を受けていると聞いた。
「道場が点検の為に使用できなくてな。朝練はしばらくおやすみ。放課後に素振りなどの基礎練習はするから竹刀は持ってきている」
「大変だね。道場が使えないなら休みにすればいいのに、練習も大変なんでしょ?」
「俺にとって日常の一部になっているから苦ではないよ」
それから僕と芥川君は他愛のない話をしながら校門を潜り下駄箱で別れる事になる。
「なぁ、雲川」
「なに?」
「その、二カ月前にあんなことがあったから教室へ戻るのは辛いかもしれないが……落ち着いたらまた、戻って来いよ」
どこか緊張しながら心配してくれている芥川君の気持ちに嬉しく感じた僕は頷く。
「ありがとう、芥川君」
「あぁ、じゃあな」
彼がクラスメイト達のいる教室へ向かうと僕は保健室の方へ向かう。
二カ月前に起こった出来事から僕はクラスメイト達と離れて保健室の近くにある特別教室に在籍している。
特別教室は様々な理由でクラスに馴染めない生徒や問題を抱えている者達が集まる場所で生徒の一部から問題児クラスと言われていた。
僕が特別教室のドアを開けると床に転がる細長い芋虫がいる。
「新城、学校に来てまで眠る事ないでしょ?」
もそもそと動いた芋虫、もとい寝袋に入っていた新城がアイマスクを取って目を開ける。
いつも思うけれど、アイマスクをして、その下に眼帯がついたままで寝づらくないのだろうか?
「んぁ?あぁ、お前か」
僕の顔を見ると彼は再びアイマスクを装着しようとした。
「ちょっと、なんで僕の顔を見て寝るのさ」
「まだ始業時間じゃないからだ。元優等生サマは余裕をもって登校しているからな。何より、眠い」
「それは僕も同じなんだけど、まぁいいや」
特別教室は15個程、机と椅子が置かれているけれど、利用者は僕と新城のみ。
気に入っている窓側の席へ僕は座る。
いつもならそのまま静寂が教室を包み込むんだけど、今日は違った。
「失礼しまーす」
教室のドアが開いて一人の女子生徒が入ってくる。
肩にまで届きそうな髪は細くきらきらと金色に光っていた。
ハーフだろうか、白い肌に緑色の瞳、整った顔立ちはまさに美少女と言われてもおかしくはない。
「え、ミノムシ?」
少女は教室で寝ている新城の姿に驚いていた。
「えっと、この教室に何か用事?」
起きる気配のない新城の代わりに僕が尋ねることにした。
「この教室に新城凍真って人がいるって聞いたんだけど、アンタ?」
「違う違う、新城はそこで寝ている奴」
「え、ミノムシが?」
「まー、このミノムシが」
驚いたように寝袋に入っている新城の頭を突く少女。
あれ、この子。
「ところで、キミは?」
誰なのか尋ねたら急に鋭い目で睨まれる。
何か失礼な事を言ったかな?
「なんで、アンタに自己紹介しないといけないの?」
「え?ダメだった?」
「……別に、そういうわけじゃないけど」
睨んでいた目がちらちら揺れたと思うと小さくため息を零して。
「日本史の工藤先生が特別教室に新城凍真っていうチビが――」
「だぁああああああれが、チビだぁああああああああああああああああああああ」
あ。
「うるさ!?」
ミノムシ状態だった新城が目を見開いてグワッと起き上がる。
禁句を言われた新城は驚いている少女へ飛び掛かろうとするが間一髪、伸ばした手で拘束することに成功。
「離せ!俺をチビ呼ばわりした奴をボコる!」
新城は高校生でありながら150センチと身長が低い。
そして、身長が低いことを指摘されるとキレてしまう。
こうなった新城は誰かれ構わず喧嘩を売ってしまうので要注意だ。
「ダメだって、相手は女の子なんだから」
「しるかぁああああああ!」
「え、なに、事実を言われて怒っているの?器が小さい」
「てめぇええええええええ!」
「落ち着いてって!キミもお願いだから不用意に煽らないで!」
さらに暴れようとする新城を抑えていると教室のドアが開く。
「失礼するよ。あ~、やっぱりこうなっていたか」
白髪でメガネをかけた老人が入ってくる。
この学校で日本史を担当している工藤先生。
「暴れるほど元気があることは嬉しいことだが、話が進まないからそろそろ落ち着いてくれるかな?」
彼は工藤先生、この学校で日本史の授業を受け持っており特別教室の生徒達の面倒をみている。
そして、普通の人は知らない事だが彼も僕達と同じ祓い屋である。
今は高齢ということもあって引退していると本人は言っているけれど、彼を尊敬、頼りにしている人達は今も大勢いるという。
「チッ」
新城も工藤先生に頭があがらない。
前に聞いたけれど、過去に助けてもらった恩があるという。
乱暴に着席した新城をみて、工藤先生は女子生徒も座るように促す。
「彼女はC組の瀬戸ユウリさん。キミ達と同じ一年生だ」
僕らと対面する形で座ると工藤先生が説明を始める。
「あ?瀬戸?」
「なによ。文句あるの?」
苗字に反応した新城に鋭く睨む瀬戸さん。
「別に~」
「話を続けるけど、彼女は問題を抱えていてね。それを君たちに何とかしてほしいのさ」
「問題?」
「詳細は彼女からきいてくれるかな?僕は授業があるから」
「え、工藤先生!」
教室を出ようとする工藤先生に瀬戸さんが慌てて声をかける。
「後は若い者同士でよろしく」
ひらひらと手を振ると瀬戸さんが止めるのも聞かずに教室を出ていく。
気分屋というか、奔放なところがある工藤先生に置いて行かれた瀬戸さんは酷く戸惑っていた。
「えっと、瀬戸さん」
「なによ」
睨まれた僕は少し臆しながらも話を進める事にした。
「工藤先生に相談した内容ってなんなのかな?」
「アンタ達が頼りになるの?」
「えっと、まぁ、信じてもらえるかわからないけど」
「信じられるわけないでしょ!」
机に手を叩きつけながら瀬戸さんは叫ぶ。
「あんなことがあって工藤先生に相談したら助けてくれるのかと思ったら問題児ばかりが集められた特別教室に連れてこられるなんて!」
「いや、あの、その、落ち着いてよ。瀬戸さん」
怒鳴る彼女を宥めようとする僕に対して新城は面倒そうに顎へ手を置いて傍観して助けてくれない。
「工藤先生も面倒だからアンタ達に押し付けたんだ。アタシの話なんて最初から信じていなかったのよ!もう、アタシ」
「ほい」
彼女が最後の言葉を言い切る前に立ち上がった新城がポケットから一枚の札を取り出して何もない空間、正確に言えば瀬戸さんの肩当たりへ投げつけた。
札は空中で何かに当たるとボッ!と燃え出す。
「きゃっ!」
突然の事に驚いて離れる瀬戸さん。
緑色の炎を噴き上げて消えるお札。
「逃げたみたいだな」
「そう、だね」
「ちょっと、何の話よ!?アタシにも説明して!」
「アンタの肩に怪異がいたから祓った」
「は?怪異?」
困惑した表情を浮かべる瀬戸さん。
僕と新城、多分、工藤先生も気づいていたと思うけれど、教室に入ってから彼女の肩辺りにずっと低級の怪異が憑いていた。
新城は祓いの札を用いてその怪異を祓ったんだ。
「初心者レベルのアンタに説明するなら妖怪やら悪霊の事だよ」
「ば、バカにしないでよ!そんなものいるわけがないでしょ!やっぱり、アタシ、騙されて」
「じゃあ、さっきの炎はなんだ?」
「手品か何かでしょ!大体、こんな科学が発展した時代に妖怪とか、ゲームのやりすぎ!」
まぁ、こうなるよね。
怪異に遭遇した本人ですらアレが何なのかという理解が追い付かない。
説明できないまま色々な事が起こって追い詰められていくのが怪異の厄介なところでもある。
おそらく瀬戸さんはダメ元で頼りになる工藤先生へ相談して碌な説明もないまま、ここへ連れてこられたのだろう。
先生なんだから、そこはちゃんとやってほしいなぁ。
「じゃあ、帰れよ」
面倒という風に新城は出口を指す。
「信じられないというなら帰れよ。だけどな、お前が抱えている問題、他の人に話しても信じてもらえないだろうよ。これから多くの人に相談しても解決の糸口すら見つからず、アンタはずっと、その問題を抱えて生活することになる。それでもいいならドアを開けて去るといい。伝えておくが一度、断ったら俺は二度と引き受けないからな。それでもいいなら帰ってくれ」
怪異関係の依頼者は冷静さを欠いている。
そういう人達の助けになる為に祓い屋はいるけれど、すぐに信じて頼ってくれるわけじゃない。
酷だけれど、こういう突き放したような形の態度をとることで僕達だけがなんとかできるんだぞということをアピールする方法もある。
極端な方法だけど効果的だ。
「瀬戸さん、僕達の事をすぐに信じられないって気持ちはあると思う。でも、さっきのアレをみて信じられないというのなら、悪いけど、僕達は力になれない」
似たような経験がある僕としては、このまま放っておくことはできないから彼女へ優しく伝えてみる。
新城の言葉に少しだけ冷静さを取り戻したのか敵を見るような目が少し薄まり、不安に揺れる目で瀬戸さんは尋ねる。
「助けてくれるの?」
「勿論、その為に俺達はいるんだ」
不安に揺れる瀬戸さんへ新城はすぐに答える。