私の名はヤルコビッチ。
 シェイラ国王都のファグネリアで、商人をやっている。

 定期的に東にあるジェイラスの町へ、小麦や日用雑貨を売りに行っている。
 その日もジェイラスの町に行き販売が終わった帰り道、不思議な少女と会った。

 夕暮れになり野営の準備のため、道端に休んでいる時だった。
 暗がりの中から急に女の子が1人現れた。
 そして驚いたことにシルバーウルフを5匹従えてた。
 しかもその内の一匹は銀色の毛並みだった。
 毛並みが銀色になるのは上位の魔物の証だ。
 普通に考えても調教師(テイマー)が5匹の従えるのは難しいと聞く。
 しかもこんな少女が…。

 少女は髪が背中まで伸び、この国では珍しい黒髪、黒い瞳だった。
 数百年前に召喚された勇者の子孫が黒髪、黒い瞳だったと聞く。
 しかし時は流れ血は薄くなり、黒髪は居ても黒い瞳は見たことが無い。
 勇者の血筋?
 または召喚者か?

 しかし変なところがある。
 王都方面から来たはずなのに、王都に向っていると言う。
 我々に会わなければ、王都とは逆方向に進んでいたことになる。
 途中の村から出てきたと言うが村があったか?
 確かに村とは呼べない規模の集落はあるが…。

 それにシルバーウルフを魔物だと分からず、犬だと思っていたと言う。
 そんなことがあるのか?
 1.5m以上ある2本の角を生やした犬が居るのか?

 そんな彼女に魔物も懐いており、甘噛みを絶えずしていた。
 しかし甘噛みというよりは、食べようとしているけど噛むことが出来ない、そんな感じに見えた。
 例えば私が甘噛みされたら、きっと手足が千切れるだろう。
 そんな勢いだったからだ。

 そしてシルバーウルフ達に食事を出した時には驚いた。
 何もない空間から餌とお皿を出したからだ。
 マジック・バッグは商人なら、喉から手が出るほどほしいものだ。
 しかし容量が少ないものが多く、馬車1台分も入る物なら国宝級となるだろう。

 そして魔物達にあげている餌が、とても美味しそうな匂いをしている事に驚いた。
 話を聞くと犬族用の食べ物だと言う。
 犬族用の食べ物なんてあったのか?
 そう思ったが冒険者で犬族のジョヴァンニさんが、匂いに釣られ分けてほしいと言いだした。
 スズカさんは分けることは出来るが、いくらにして良いのか分からないと言う。

 そこで私が相談に乗った。
 聞くと材料はビーフとチキン。
 それに緑黄色野菜や小魚が入り、ペースト状のものは鳥の胸肉で原価は157円だと言う。
 信じられない!!
 我々でさえ肉は貴重で、中々口にする事が出来ないと言うのに。
 
 店を構えているなら経費を乗せないといけないが、品物は無くなったお父様の仕入れた在庫だと言う。
 自分が仕入れていないから、だから価値観が合わないのか。
 利益率を35~37%と考えても200円くらいしかならない。
 考えられないくらい原価が安すぎる。
 しかしこんな野営をしているなら、500円と言うところが妥当か。
 あまり高すぎるのも問題だから。

 そしてその美味しそうな匂いに食をそそられたイングヴェさんが、猫族用の食事はないのか聞いていた。
 すると猫族用の食事もあると言う。
 いったい猫族用と犬族用で何が違うと言うのだろうか?


 そのスズカさんも夕食を食べようとしている。
 マジック・バッグから取り出したのはまっ白なパンだった。
 小麦は貴重で庶民には中々手に入らないものだ。

 しかもイチゴとブルーベリージャム、そしてハチミツの入った瓶を出した。

 信じられなかった。
 砂糖や果物は高級品でジャムは高価になる。
 ましてはハチミツなど、魔物の巣から採るために命がけとなる。
 それを気軽に差し出すとは…。
 その価値すらも、わかっていないようだ。
 そして貴重な水も気前よく差し出す。

 彼女は危うい。
 誰かが守ってあげなければ…。
 
 どうやら彼女は調教師(テイマー)ではなく、商品を売って生計を立てたいようだ。
 その方が良いかもしれない。
 冒険者なら命の危険が付きまとうものだから。


 これも女神ゼクシー様のお導きかもしれない。
 私であれば商売を通じてスズカさんの力になれるだろう。
 まずは王都に着いたら、これからのことを考えなければ…。