ポンコツ救世主はドSな騎士に溺愛される

 うっとりとその様子を見ているとアレックスは「我々は邪魔かな。散歩に行こうかフレンド」と言い、私の腕を引っ張ってフレンドに乗せ、自分もそのまま私を後ろから抱きしめる体制で乗り込んだ。フレンドは大喜びで急上昇。急上昇はやめてーー!まだ慣れてないんだから!
 フレンドのたてがみに必死にしがみついて空の散歩。
 それはそれは、とっても美しい景色を下界に見ながら、アレックスは私に急接近して耳たぶを甘噛み。フレンドの背中でそんなことをされると、嫉妬で落とされるかも。
「アレックス」
「何?」アレックスの柔らかな前髪が首筋に触れてくすぐったい。
「ちょっと離れて欲しい」
「嫌だ」
 そっと身体を離そうとする私を拒否するように、彼は余計に私に密着して、しっかり抱きしめて首筋にキスを繰り返す。
「本当にやめて」
「嫌だ」
 優雅で品があって威厳があって、優しくて癒し系で完璧な王様だけど、今日はどうしたのか駄々っ子王様になっている。疲れているのかな。でも、これはちょっと困ってしまう。
「いや本当に……やめて」
 ズルズルとフレンドの背中で私達の身体は崩れ、完璧に私は押し倒されてしまった。
 フレンドのたてがみはフワフワしていて、上質なラグのようだ。黄昏を背にして、アレックスが私を拘束して両手首をつかむ。このまま、そうなっちゃう可能性もあるかもしれない。フレンド、超めちゃくちゃ運転して私を落としてちょうだい。
 王の重みが私の身体に重なる。ふわりといい香りがする。何の香りだろう。上品なバラの香りがする。
 彼の唇が私の名前を呼び、そっと重なる寸前で、私は顔をそむけてキスを拒否した。いつも穏やかな王の顔が曇り、長い指が優雅に私の頬をなぞる。
「リナ?」
「……ごめんなさい」
「私に逆らうのか?」こんな冷たい声も出るんだって、変なところで感心してしまう。
「ごめんなさい」顔を横にそむけたままで、バカ正直な私は謝罪の言葉しか出なかった。
 キスぐらいすればいいのに。こんな大切な時にアレックスに嫌な想いをさせてどーする。嫌な思いというより、王様に逆らって恥をかかせるなんて重罪でしょう。
 でも私の頭の中はリアムでいっぱいで、彼以外の唇を受け付けない自分がいた。どの時代に飛んでも不器用な私だ。
「私の妃になる約束はどうした?」
「それも……ごめんなさい」バカだ。バカだよ私。
「リナはここで私に殺されても文句は言えない立場にある」
 王の威厳にあふれた言葉が心臓に突き刺さった。
「わかってます」
 それは私が一番わかってる。自分を偽って生活すれば丸くおさまるけれど、それができないのが自分だ。そして、私の愛する人もできないだろう。似たもの同士だから。
 動きを押さえたアレックスが、胸元から短剣を取り出すと、フレンドが何か感じたのか動きを止めた。アレックスの手のひらほどの小さな短剣だったが、切っ先が鋭く心臓に刺さったら間違いなく一突きで死ぬだろう。鏡のように磨かれたその側面に私の驚いた顔が映る。その先端が軽く私の胸元に触れると、呼吸をしただけで赤い血が流れそうな近さだった。
「アレックス?」怖くて声が震えて小さくなる。
「しーっ静かに。動くと死んでしまう」
「アレックス」
 怒ってる?いやもちろん怒ってるよね当然でしょう。でもこの場で私を殺してしまうの?
 背中が小刻みに揺れる。フレンドが怖がって泣いている。死にそうな場面だけど、私は泣いてるフレンドが気になってしかたなかった。
「正直に言いなさい。リナの心は誰にある?」
「私の心?」アレックスの表情が読めない。怒っているけど、怒りよりもっと何かありそうで……でも胸元から血を流している私は頭が回らない。私が返事をしないのでアレックスは「リアム!すぐ私の前に現れろ!リナがどうなってもいいのか?」と、大きな大きな声で叫び鋭い雷を呼び込んだ。
 そして
「やめろアレックス!」リアムの声が私達に届き、声の元を見ると黒い軍服を着たリアムが黒いペガサスの背に乗って、私達の真横に並んでいた。
「リナから離れろ!」
 こんな怖い顔をしたリアムを見るのは初めてだった。長い髪と黒いマントをなびかせ、ヘーゼルの瞳は怒りに溢れて、威圧感のある低い声は誰もが委縮してしまうだろう。
 でも王は違った。リアムの登場に楽しそうに微笑んでいた。アレックスはどこまでも優雅な王様で、リアムはどこまでも闘う騎士団長だった。
「リナから手を引け」
「王に命令をするのか?」
「離れろ」
「私に忠誠を尽くし、自分の命に代えても私を守るのではなかったのか?」
「リナは誰よりも大切な女性だ」
「リアム……遅い」
 アレックスはため息をしながらそう言って、短剣を持っている右手を優雅に高く上げた。

 怖すぎると声も出ない。あぁここで私の人生終わってしまうんだ異世界で終了ってどーよ。カレーもスタバも連ドラもさようなら。いや最後がドラゴンの背中で王に短剣で刺されるって、想像もつかない終わり方だった。秒単位の短い時間でグルグルと色んな事を思ってしまう。これが死の一歩手前の走馬灯ってやつなのね。横を見るとリアムと目が合った。リアムは半分泣きそうな顔で何かを叫んでる。冷酷騎士団長様に泣きそうな顔は似合わないよ。ラストにいいもの見せてもらったかも。

 リアム
 本気で本当にすっごく
 大好きだった。
 知らないうちに涙があふれる。
 もう一度その胸に抱かれたかった。これが私の運命なのかと、深く深呼吸して覚悟を決めた瞬間、ぐわーんと身体が放り飛ばされた気分になった。友達に嫌々誘われたウォータースライダーで順番待ちをしていたら、いきなり気持ちの準備のないまま背中を押された感じに似ている。ガン泣きであまり覚えてないけれど。
 私の身体を押さえつけていたアレックスの姿は見えなくなり、私は乗り物酔いになる暇もないくらい身体を揺らしていた。どうやらフレンドが号泣しながら、私を背にのせ空で暴れているらしい。
「いやちょっと!フレンド落ち着きなさいっ!」
 フレンド!ハウスっ!一歩間違えて落ちたら、これも間違いなく命はない。フレンドのたてがみを必死でつかみ、心臓バクバクさせながら私は空を飛んでいた。フレンドの興奮はおさまらない。
 そりゃそうだろう。大好きな王様が自分の背中で短剣を振り回すなんて、ショックで暴れたくなる気持ちもわかるけど、私が背中に乗ってます!乗車中です!どこー?降りますボタンどこー?
「落ちついてフレンド!」私の声は聞こえないようで、グルグルと興奮したドラゴンは神殿の上に移動して、高速メリーゴーランド状態。三半規管弱いから吐きそう。
 フレンドの涙が大粒の雨のようだ。また大きく身体を揺らしたので、その弾みで私は頑張ってつかんでいた手を離してしまった。
 
 落ちる!
 そんな恐怖を感じ、ギュッと目をきつく閉じていると「リナ様!」聞きなれた可愛い声がして、私は大きな大きなツバメの背に落ち、シルフィンが小さな身体で私を抱きかかえていた。
「シルフィン?」
「御無事ですか?お怪我はないですか?」
「うん大丈夫。フレンドが興奮してる」
「大丈夫です。今、ジャックが行きました」
 シルフィンの目線を追うと一羽の鷹がレーザービームさながらのスピードでフレンドの頭上に追いつき、何やら説得をしている雰囲気だ。
「アレックス……アレックスは?リアムはどこ?」
 
 ふたりとも私の前から消えてしまった。シルフィンに詰め寄ると、彼女は青ざめた顔をして神殿を指さした。
壊れた神殿はフレンドの涙で濡れていた。さっきまで威厳を持ち、一国の王として仕事をしていたアレックス。今は私の愛する人と剣を交えている。
「リアム!」空から私が声を上げても集中していて届かない。「リアム!」声が壊れそうなくらい叫ぶ私をシルフィンの小さな手が支える。
「どうしようシルフィン。2人ともこの国にとって大切な人で、今はこんな闘ってる時じゃないのに……全部私のせいだ」
 リアム、あぁリアムお願いだからやめて。この国で一番勇気があって強い騎士団長だけど、王も負けないくらい剣の腕は強い。上から見てもどっちも同じくらい強くて、ちょっとの油断を見せたらすぐ勝敗がつくだろう。それだけ僅差で迫力も緊張もある闘いだ。
「リナ様は……」
 シルフィンの声も耳に入らず、私はどうしていいのか泣きそうになっていると、彼女は冷静な声で私に聞く。
「リナ様は王ではなく、リアム様を愛してるのですか?」
 王を愛する彼女に問われて一瞬時間が停まり、頭が真っ白になった。
 アレックスに殺される前に、シルフィンに殺される方が正解かもしれない。誰よりも王を想う澄んだ少女の瞳を見ているとそう思ってしまった。
「そうです。ごめんなさい」年下の女の子に真正面から頭を下げて、心から泣いて謝罪する。こんな心を痛めての謝罪なんていつ以来だろう。泣いてすむ問題じゃないし、私より泣きたい子を前にして涙を見せるなんて……ダメな大人です。
「泣かないで下さいリナ様。責めてはおりません」
「でも……」シルフィンの気持ちを考えたら泣けてしまう。
「私は王様も大好きですが、リアム様も大好きです。みんなそうです。騎士団長であるリアム様はみんなに尊敬されていて、王と同じくらい誇れる方です」
「シルフィン」
「それに、王様が考えもなくリアム様と剣を交えるはずがありません。何か考えがあると思います」
 大人の私が泣き叫んでるのに、シルフィンは冷静だった。闘う二人を覗き込むシルフィンにならって、私も大きなツバメの背から二人を見る。剣が火花を起こす勢いの接戦なんだけど、気のせいかアレックスの顔が楽しそう。私の視線を感じたのか、リアムが視線をアレックスから外した瞬間「油断するな!」とアレックスの大きな声がして、リアムの剣を手元から奪い、リアムは観念したようにその場に倒れ込んだ。
「リアム!」
 アレックスに負けないぐらい大きな声で彼の名を叫ぶと、シルフィンは私の腕をつかんで二人の元に瞬間移動してくれた。私はリアムとアレックスの間に飛び出してアレックスの顔をにらんだ。

「私が全部悪い。殺すなら私にして」
「リナは下がってろ!これは俺とアレックスの問題だ」
「黙ってられないでしょ。もとはと言えば私が飛ばされて現れたのが悪いんだから」
「リナは救世主だ。魔王を滅ぼす力を持っている大切な存在だ」
「この石頭!」
 不器用で意地っ張りで、私達はなんて似ているのだろう。こんな殺されそうな場所で口論する私達を見て、アレックスはお腹を抱えて爆笑した。
 王様は笑い上戸だ。また変なツボにはまったのだろうか?柔らかそうな金髪が揺れ、うっすらと暗くなった夜の始まりの空に輝いていて綺麗だった。
「本当にお前たちは……見ていて楽しい」
 そして自分の剣を戻し、スッと片手をリアムの前に差し出した。
「やっと私の名前を呼んでくれたな。リアムから私の名前を聞いたのは、もう何十年振りだろう」
 いつもの優しい、穏やかな王の微笑みだった。リアムはアレックスの手を取り立ち上がると、私の肩をしっかりと抱き寄せて私の顔を見つめる。
「心配したんだから……」
「悪かった」
「私こそ……ごめん」
 ぎゅーっと力強く抱きしめられる。もっともっと、強く強く抱きしめてほしい。
 よかった。無事で本当によかった。
どのくらい時間が経過したのかわからないけれど、リアムの胸の鼓動が届くぐらい強く抱かれて、やっと安心できた私。きっと彼も同じ想いだろう。
 やっと私を解放して肩を抱き、一歩下がって王に膝を着こうと思ったら、アレックスは「そのままでいい」と言い、壊れた神殿の固いベンチに私達三人は移動した。

 もう星が出ている。少し落ち着いた涙目フレンドが離れた場所で、ジャックとシルフィンに撫でられながらちょこんと座ってる。今にも駆け寄って抱きつきたい気持ちを押さえ、私はアレックスの言葉を待った。
「怖かったろう。申し訳なかった」アレックスが私の胸元をそっと触ると、ナイフで切られた傷跡がスーッと消えて痛みも跡もなくなる。やっぱり魔法って不思議。
「リアムがリナを好きになったのは、すぐわかった」
 単刀直入に王に言われ、リアムの身体がピクリと動く。
「いつも冷静なリアムがリナの前では乱れて落ち着きがなく、ずっと目でリナを追い、私がリナを王妃にしようと宣言した時のリアムの顔は……おもしろかった」思い出したようにアレックスはまた爆笑し、リアムはぐうの音も出ないほど打ち負かされている。闘いは得意だけど、恋愛ネタで突っ込まれるのは不得意らしい。

「リアムには幸せになって欲しい」
 じんわりと真冬に飲むホットワインのように、アレックスの言葉は優しく温かかった。
「リナ。私達はずっと子供の頃から一緒で、兄弟のように過ごしてきたのだよ。遠慮なくケンカもよくする仲だった」
「王……」
「もうアレックスでいい」軽く手を上げて抑えるようにアレックスはリアムにそう言った。
「それが私達の両親が殺され、私が背中に大きな傷を負った日から、リアムは変わった。自分を犠牲にして私の為だけに生きようとしていた、私は忠実な部下を持ったけど、私は大切な兄弟を失ってしまった」
 アレックスの目線が遠くを見るので、私は王の孤独を感じてしまう。
「ここだけの話だが……今回の闘いは負けるだろう」 
 いきなりの敗北宣言に私とリアムは目を合わせて驚き、思いっきり否定しようと思っていたら、アレックスが私達に目線を合わせる。
「だから私は、堂々とリアムに幸せになって欲しい。私に遠慮して隠れてコソコソと互いのベッドで愛し合ってるのだろう」
 そこまでわかってた?頬がカーッと熱くなる私。
「どこで自分の気持ちを出して、私に宣戦布告するかと思えば情けない」
「しかし……」
「しかし……何だ?言ってみろ」
 アレックスに遊ばれてます。その様子が楽しくて笑ったら、アレックスも笑う。するとリアムも笑顔を見せてくれて三人で声を出して笑った。冷たい夜風が心地良くて、ずっと離れていた懐かしい大好きな同級生と会ったような気持ちになって、ずっとずっとこのまま三人で笑っていたかった。時間が止まって欲しかった。

 それくらい意味のある大切な時間で、こんなに楽しく嬉しい時間なのに、終わりが怖くて切なくなった。

その夜
泣きつかれたフレンドは城に帰ると秒で寝てしまい。リアムは東の領地に獣虫が現れたのでジャックとお出かけ、シルフィンは街で魔除けのお仕事。さりげなくみんな忙しい。私は夜の厨房にこっそり入り、身体を低くしてキョロキョロと不審者のように動き回る。シェフに見つかったら怒られそうだ。鍋も魔法で磨けない私がシェフの聖地に入り込むとは、それこそ命がないだろう。
 私は自分用に作ってもらった冷蔵庫の中からガラスの瓶を取り出した(みんな魔法で冷たい材料がすぐ出せるので、冷蔵庫が必要なのは私だけだった)小さなスイカほどのガラスのボールには、私は中庭からいただいたリンゴ、レモン、キウィ、オレンジをカットして白ワインに寝かせていた。自家製サングリアのできあがり。ちょっとハチミツも入っているので美味しいよ。私は音を立てずにガラスの瓶の液体を二つグラスに移し、そっとアレックスの書斎に持って行く。

 アレックスは書斎で仕事中なのか、難しい本を片手に疲れた顔でソファに沈んでいた。
「少しいい?」
「大歓迎。よくここまで来れたね」
「魔法のドアが私の部屋にあるので」
 ドヤ顔で私は言い、自家製サングリアをアレックスに差し出した。
「フルーツの香りがする」
「サングリアっていうの。私は白ワインが好きだけど赤で作っても美味しいよ」
「美味しい。これは街でも流行りそうだね」
 そうだ!居酒屋さんに売り出してみよう!ワインが美味しいのだからサングリアも絶対美味しいはず!
「リナはすごいね」
「すごくないよ」
 全てにおいて凄いのは、あなたの方でしょうアレックス。
「今日はお互い疲れたから、ごほうびワインか」数時間前の冷たい表情が嘘のように、アレックスは優しく私に微笑んでグラスを向ける。
「殺されるかと思った」
「悪かった。でも、あそこまでやらないと、リアムの本気が見れなくて。悪いのはリアムだから」色気のある顔でウインクされたら何も言えません。悪いのは全部リアムで問題ないです。
「リアムを頼む」
 笑顔の裏を覗くのが怖い。アレックスはドームを造ったり、リアムを想って私にお願いしたりで、死を急いでる予感がしてたまらない。
「アレックス」
「何だい?」
「何度も言うけど、私達は勝つよ。勝ってみんなで幸せに暮らしましたって結果になる」
「占い師リナ」苦笑いでアレックスはグラスを傾ける。
「いや冗談じゃなくて、私なんてあっちの世界じゃ、付き合ってた男に結婚寸前で捨てられて、仕事に生きるしかない平凡な女だった。臆病で別の生き方もできない女だったけど、こっちの世界に呼ばれて気付いたの。アレックスのお母様に呼ばれたんだって。この国を救う為に私はやってきた。自分の道は自分で切り開く。ダメとか無理とか言いたいけれど封印しようよ。お互いに約束しましょう」
 そう言いながら、一番先に約束を破って言いそうなのが私だけど。
「アレックスを見ていると辛い。リアムもそうだけど頑張り過ぎて押しつぶされそう。みんないるよ、私もシルフィンもジャックも国民もみんないるから……だから絶対勝とう」

 言霊よ我に降りろ!真剣に私がアレックスに言うと、アレックスはゆっくり「ありがとう」と言い私に近づきそっとハグをした。
「友情のハグとみていいでしょうか?」その腕の中、恐る恐るアレックスに聞くと笑われた。
「もしリアムが行動に出なかったら、本気でリナを妃にもらおうと思っていた」
「えっ?」
「美味しいワインをありがとう。さぁ今日は疲れたろう、もうそろそろリアムも帰って来る。決戦の前にリアムとリナの挙式をしようか?」
「挙式は勝利の後のお楽しみにします」
「そうか」などとアレックスに宣言したけど、リアムと結婚の約束ってしたっけ?先走った返事に照れてしまう。
「リナ」
「はい」
「やっぱり私の妃になるか?」
「アレックス」
「ん?」
「胸元にキスマーク付いてます。あと女性用の香水の香りがします」
「えっ?いや……虫?虫かな?」
 アハハと乾いた笑いをして私の身体を離すアレックス。この国の王様がたらしだったのを忘れていた。この忙しい中、おねーさんと遊ぶのは忘れてないのか。さすがだ。
「まだ遊びたいから結婚はしない」サラッと言われて私はクスッと笑う。素直な王様だ。しばらく結婚はないらしいよ。よかったねシルフィン。
「おやすみ」軽く頬にキスされたと思ったら、私の身体は瞬間移動で自分の部屋に戻ってしまった。

 アレックス、言霊は絶対あるよ
 私は信じてる。
 その夜
 寝返りを打つと、ベッドの隣に人の気配あり。シャワーを浴びた後なのか、爽やかなバラの香りがするリアムがいた。いつの間にもぐり込んだのだろう、熟睡していて気付かなかった。そして彼は全裸だった。この時代の男性ってこうなのかな?アレックスはレースのパジャマが似合いそうだけど。私の気配に彼も気づいたのか、閉じていた目を開いて私を見る。
「パジャマ着ないの?」
「パジャマとは?」
「いいです」
 ゴソゴソと深く甘えて彼の腕の中に潜る私。引き締まった腕と胸が素敵です。背が高くてスラッとしてるから、あまり筋肉とか軍服の上から感じなかったけれど、さすがたくましいね騎士団長様。愛する人の腕の中は最強です。リアムは私を抱きしめて額にキスをする。

「私を助けてくれてありがとう」
「巻き込んで悪かった」
「アレックスの言葉が胸に響いた。大切な兄弟を失って忠実な部下を持った……って言葉。アレックスは寂しかったのかも。リアムが急に遠い存在になった気がしたのかな」
「そうかもしれない。俺はアレックスに大きな傷を負わせてしまったから、強くなって王を守ることしか考えつかなかった」
「でもそれは仕方ないよ。リアムも子供だったし自分だってご両親を失ったばかりで、何をどうしていいのかわからないのだから」私なら絶対パニックになってしまう。
「そう言ってもらえると楽になる」
「リアムはアレックスと違って、身体も心もガチガチしてるもん」
「ガチガチ?アレックスが開放的すぎる」
「それは言える」
 ふたりで笑ってしまう。アレックスはくしゃみしてるかな。