「ごくごく普通の話だ。戦いはいつの時代でもある。魔物との戦いもあれば人間同士のつまらない戦いもある。その時の王は私の父で、優しくて誰からも尊敬される魔法使いだった」
「今のアレックスですね」
「ありがとう。少しでも父に近づきたくて頑張ってる」
 過去を語るエメラルドの瞳は寂しく見えた。

「母親は身体の弱い静かな人だったが、愛情が深く優しい人だった。侍女をしていたリアムの母親と、とても仲が良くて姉妹のようだった。リアムの父親は勇敢な騎士団長で父の右腕だった。互いの両親が一緒に過ごす時間が長く、私とリアムも兄弟のように常に一緒だった。そしてあの夜も私はリアムと一緒に過ごしていると……隣国の兵士たちが一気に城に攻めて来て……私達を襲った」
「そんな子供を?王様の魔法で敵を一瞬で全滅させることはできませんでしたか?」
「敵も強い魔法使いだからね。あと、戦争に子供も大人も関係ないのだよ。城は魔法だらけだ。血が流れ叫び声が上がった。城の内部に裏切り者がいたらしい。私が大ケガを負い、リアムが殺されそうになる寸前、リアムの母親と私の母親が現れて……私達をかばって私達の犠牲になって殺された。目の前で一瞬で人形のように八つ裂きにされてしまった。その後で父親たちが部屋に飛び込み、リアムの父親は勇敢に戦ったけど亡くなり、怒り狂った私の父は自らの命と交換に危険な魔法を使って敵を滅ぼしたけど……自分の命も失った」
「そんな……」
「それが戦いなんだよリナ」
 淡々と語る姿が痛々しい。
 まだ子供なのに、自分の両親が目の前で殺されるなんて……ありえない。

「なぜ泣く?」
「え?」知らないうちに私の頬に涙が流れていた。
「優しい子だね」
 アレックスの指が私の涙を払う。泣きたいのは子供時代のアレックスだよね。リアムも同じなんだ。
 どんなに苦しくて悲しかったろうか。