それは大きなホールケーキを8等分した図に、細かく数字が書いてあり、円の外側にも記号と数字が並んでいた。なんだこれ?
「春の星獣祭の星周りだ。この流れから読むと次の新月の時に牛飼い座はどの場所にくる?そして下弦の月はいつになる?」
「はい?」言ってる意味が本気でわかりません。
「星も読めないのか?」
 もう呆気にとられたように棒読みで言われてしまった。
「星は……ちょーっと……読めません」
「料理はできるか?」
「一応女子ですからできます」やります!なんでもやります!厨房の下働きに使って下さい!目を輝かせてリアムを見ると
「牛の解体はできるか?」と聞かれてしまった。
 うっ……牛?
「羊は?七面鳥は?カモは?ウサギはさばけるのか?」
 ズンズンとリアムに詰め寄られ、私は狭い部屋の石壁に追いやられた。
「……できません」半泣きでそう言うと、リアムが怒鳴る前に王様が爆笑する。

 だって
 牛なんて普通さばけます?
 スネと肩ロースとタンの場所しかわかんない。
「何もできないのか?」
リアムに言われて言葉に詰まる。
 くっ、悔しい。でも本当だ、私は何もできない。魔法も使えない私は世界ではポンコツだ。
 でも普通は、異世界に飛ばされたらあっちの能力を生かして『すごーい』とかって、尊敬されてチヤホヤされるはずなんだけど……そんなに甘くないのか、いや飛ばされた世界が悪いんだよ。これは普通じゃないもん。まぁ異世界の普通ってわかんないけどさ。ここじゃTOEICも関係ないんだよ。

 要するに、落ち込みが止まらない。
 壁ドンされて自分が情けなくて泣きそうになってたら、リアムの顔がうろたえた。
「泣かせるつもりじゃなかった」あら?意外と素直?噛んでた唇を緩めてリアムを正面で見ると、申し訳なさそうな顔になっている。なんか想定外。
「七面鳥も羊も、料理長が魔法で解体してるだろう。女の子を攻めてはいけないよ」
 王様に言われてリアムは壁から手を離して私から離れ「朝の点呼がありますので」と静かにそう言い、部屋を出て行ってしまった。

「紅茶が冷めてしまったね」残された部屋に二人きりになると、さりげなく王様がそう言ってくれた。
「王様」
「アレックスでいいよ」
「アレックス」
「なんでしょうか?」
 テーブルの上にあった堅苦しい星座表が消えて、今度は花柄のティーセットが現れた。