「うーーーん!」
 声を出して引っ張ってみるけど、やっぱり外れない。王様はこの指輪の秘密を知ってるかもしれない。変にバレる前にやっぱり本当の話をした方がいいのかな。頬が熱い。美味しいワインに酔ったかも。
 お風呂入りたいな。着替えたいな。今日で最終回のドラマ観たいな、今日の会議はどうなったのかな?動画が見たいな。圏外だよね……って当たり前だ。その前にスマホがないし。電気もないし……。

 目が覚めたら、元に戻ってたらいいな。フカフカなベッドと心地よい枕に誘われて、私はそのまま眠りに落ちた。




 目が覚めても
 私はお姫様ベッドの上だった。
 今何時だろう?時計がないからわからない。朝ってことしかわからない。
 心にモヤモヤを残しながら起き上がり、窓から外を覗くと雲ひとつない青空で、山の緑が目に映えた。山が呼吸をしているように感じる。街はどっちだろう?反対方向かな。見えるのは空と山と城の庭園。美しいバラ園の香りがここまで届きそう。

 空気が澄んでいた。こんな気持ちの良い朝は久し振り。
 テレビの音も車の音も聞こえない。電化製品もSNSもないクリアな世界だ。聞こえてくるのはカキンカキンと金属が重なる剣の音。剣?
 私の部屋の真下で数人の男達が剣の練習をしていた。早朝練習か?身体を伸ばして覗いたら、リアムが上半身裸で部下に剣の稽古をつけていた。

 強いっ!かなり強い。身のこなしも軽く、笑顔を見せながら部下を次から次へとやっつける。わぁ、いい身体してる。筋肉質なんだ。鍛えらえた身体だね。うっすらかいてる汗が色っぽい。ひとつにまとめたブラウンの髪が朝日に輝く。

 イケメン……だけどドSは嫌い。
 私は昨日シルフィンから教えてもらったお風呂へと続く扉を開くと、そこは想像と違ってた。
 修行僧が滝に打たれてるようなお風呂場。バスタブも何もない。そういえば、ここに来てからトイレに行きたいと思わない。異世界はトイレもパスなのか。
 私は全て脱いで天井から流れる滝の中に入り込む。修行の世界だ。でもその中に入ると、あら……いいお湯加減。水は柔らかく優しく身体にまとわりつき、シャンプーも何もいらない便利な世界……滝だけどね。
 身体をさっぱり洗ってから、近くにあったバスローブをひっかけて部屋に戻る。