「それは花乙女次第だ。
花乙女が想いを受け付けずに拒絶したら、花は落ちると聞いたことがある。
つまりあの時君は、僕に感情があったことを示し、僕の気持ちを受け入れてくれたことになるんだ。君は二重に僕を救ってくれた。
……だから新たに生まれたような気分になった、と言ったんだよ。分かってくれたかい?」

成程、ロレシオがリンファスのことを『鏡』と言った理由がやっと分かった。彼はリンファスが知るよりも深く、花乙女のことを知っている。
だからリンファスに咲いた自分の花の理由を考えたのだ。

……ロレシオは、もしかしたら『自分』を信じていなかったのだろうか……?
ふと、気になった。
ハンナやケイトの話を聞く限り、イヴラと花乙女はお互いの中から結ばれる相手を選ぶように出来ていると思う。そんなイヴラでありながら、自分の気持ちの証である『花』が着いたことを驚いたあたり、そんな気がする。
何故そう思うに至ったかは、分からないけれど。でも、ロレシオが自分を信じて、自分を認められるようになる為にリンファスが役に立つのであれば、それは積極的に関与したいと思う。
だってロレシオはこんな自分に花をくれた人なのだから。

「貴方の役に立ててうれしいわ、ロレシオ」

「直ぐに『役に立つ』という指標を捨てるのは難しいだろうね。でも、自分が自分で在るという自信を持つということは、自分の能力を間違いなく認めると言うことだ。
君は長くあの父親に罵倒されながら暮らしてきたんだろう? 言っただろう、君の館での働きぶりは、ケイトにも負けないくらいだった。そんな働き者の君が、地元で仕事を怠っていたとは到底思えないね。
白い花のこともある。君の自分を評価する指標は、お父上という物差しから変えなくてはならないものだと思うよ」

リンファスはロレシオの言葉をぽかんと聞いた。
ロレシオは先程からファトマルが悪人のように言っているが、リンファスを罵倒したのはファトマルだけではない。村人すべてがリンファスを、悪魔の子だと言って蔑み、厭っていた。
そんな中、屋根のある部屋にリンファスを住まわせたファトマルのことを、リンファスは悪い人だとは思えない。
そんなファトマルがリンファスのことを役に立たないと言ったのなら、そうなのだろうと思うことは、当たり前じゃないのか……?

「だ……、だって、あの村で、私みたいな変な色の子供を育ててくれた父さんが言うんだもの……」

「変じゃない。花乙女とはそう言う色なんだ」

「と……、父さんに満足に食事も作れなかったし……」

「じゃあ、君はどうだったの? この手もこんなに荒れて。
それに君くらいの年の女の子だったら、花乙女だって言うことを除いても、十分な食事があれば、そんなにやせ細っていたりしないだろう?」

「とう、……さん、が……、使うお金、も……稼げなく、て……」

「君がそんなにやせ細っているのに、お父上は何にお金を使っていたの」

ずっとずっとファトマルの為に生きてきた。それを取り上げられたら、リンファスはどう生きたら良いか分からない。
ロレシオの言う、ファトマルに代わる物差しを、リンファスはまだ持っていないのだから……。