このままさっさと帰り支度をして出よう。そう思って行動しようとした理樹は、沙羅がそっと身を寄せてきて、その肩が腕に触れた瞬間、真顔のままピキリと硬直して動きを止めた。

 その一瞬後、彼はガタリと立ち上がっていた。教壇の杉原に「お前も来たのか青崎……」と言われていたレイが、真っ直ぐ目を向けられていると気付いてすぐ、警戒した様子で顔を顰めた。

「なんだよ、九条理樹?」

 途端に、教室が静まり返る。自分の世界に入ってもじもじとしている沙羅を除いた全員が、理樹の次の発言を注目して待った。

 理樹は真剣な眼差しをレイに向けたまま、隣の沙羅を軽く指してこう言った。


「――青崎。俺は真っすぐ家に帰る、だからお前は、彼女を連れて教室に戻ってくれ」


 同じ一組の生徒で、尚且つ同性の青崎レイに沙羅への対応を丸ごと放り投げる、という決断だと察した男子たちが、嘘だろという顔をした。

「自分で退かせないってことなのか?」
「だとしたら、なんてチキンな野郎なんだッ」
「あいつ、考えるのを放棄して全部ぶん投げやがったぞ」

 騒ぎ立てる同性のクラスメイトたちの声を聞きながら、うるせぇ、と理樹は思った。
 女子生徒たちが「自分で相手してあげなさいよ」と非難する中、拓斗が平和そうな表情で「なんか珍しい気がする」とよく分からない様子で言って首を傾げた。