ふと、拾い上げる物がなくなってしまったことに気付いて、理樹は手を止めた。もうアンケート用紙は全て集め終わってしまっていた。

 しゃがんでいることで同じ目線の高さになっている、向かい側にいる沙羅を見た。廊下の窓から差し込む光で、柔らかで癖のない長い髪が澄んだブラウンを浮かび上がらせ、その大きな瞳には自分の仏頂面が映っていた。

 沈黙を不思議そうに聞いていた彼女が、じっと見られていることに対して少し恥じらうように、腕の中のプリントの束へ視線を逃がして、それをきゅっと抱き締めた。

「手伝ってもらって、ありがとうございます」

 そう言ってはにかむ顔は、視線が少し泳いでいて、折角の機会なのだからと次の言葉を探そうとしている様子であるとも見て取れた。また何かしら、突拍子もない要求でもしてこようとでもいうのだろうか。

 思い返せば、前世の彼女も唐突に「お花を見に行きたいです」と言うこともあった。夕暮れがくるまでの時間があまり残されていないタイミングだった時は、彼女は歩くのが遅かったから、帰りが暗くなっても面倒だと思って抱き上げて移動したら「優しい」と言われた。