反射的にどうにか避けられたが、タイミングも隠れる位置も絶妙で、危うく間一髪といったところだった。
 案の定そこには、最近はその作戦に加担しているレイもいて、彼女は「チクショー僕はめちゃくちゃ複雑な心境だッ」と、沙羅を腕に抱えて男らしく走り去っていったのだ。

 あの時拓斗が笑って「やっぱり可愛いなぁ」と言ったが、理樹としては理解し難い感想である。

「というか、なんで飛び掛かってこようとするんだ……」

 理樹は額を押さえ、悩ましげに呟いた。こちらから抱きしめた一件については、親友である拓斗にも話していないが、あれはカウントに含まれていないのだろうか、と実に不思議でならなかった。

 その疲労っぷりを聞いた拓斗が、「さっきのやつか」と察したように口にした。

「うーん、なんというか、沙羅ちゃんは相変わらずだよなぁ。さすがに飛び出してくるのは心臓に悪いから、抱き締めるのが成功したらやめるかなと思って、昨日お前のところに行かせたんだけどな」

 その思案の声を拾って、理樹は真顔に戻って「なるほど」と一つ頷いた。

「思い出した、そういえばそうだった」

 そう口にした直後、理樹は彼に絞め技をかけていた。

 床の上に転がされた拓斗が、「これ本気のやつじゃん」「めっちゃ痛いんだけどッ」と悲鳴を上げた。しかし、抵抗も虚しく卍固めをされ続けた彼は、ギリギリと締め上げながらも眉一つ動かさない涼しげな親友の顔を見上げた。