親父は厳しい人だった。自分の意思が強い人で、お酒が好きで――俺と親父は、昔から喧嘩が絶えなかった。いつも一方的に俺が負かされて、結局、最終的に従わされるのは俺の方だった。

 酔うと荒れる親父に困らされ、一方的に負かされる喧嘩の無意味さに口を閉ざすようになり、母親は俺が幼い頃に出ていった。俺と親父も同じようなもので、二人きりの暮らしの中で互いに交わす言葉はめっきり減った。

 俺は高校を卒業したその日、親父に絶縁を告げて家を出た。

 一人の暮らしは楽だった。家にいて苦痛じゃないという時間は、俺にとって初めてだった。親父に押し付けられていた家事の経験と知識のおかげで、独り暮らしに苦労も不便も感じなかった。

 しばらくアルバイト生活を続けた後、店先の店長のすすめで、俺は就職活動を始めた。資格も持っていない普通高校卒業の身だったので、軽く数十の採用試験に落ちた。もともと正社員として働く気もあまりなかった俺は、諦めかけていた矢先に支店企業の採用が確定し、フリーターを卒業したのだ。