そして花茶会前日、柚子は翌日に着る服を準備していた。
 前回は着物だったが、明日は洋服で行く。
 それは、いつも花茶会では招待客が洋服か和服のどちらを選んでもいいように、沙良が洋服で撫子が和服であると聞いたからだ。
 そんな沙良たちに倣って、同じく手伝いに行く桜子と相談して、彼女が和服というので柚子が洋服を着ることにした。
 どうやら今回、透子は呼ばれていないらしく、かなり心許ないが、桜子がいるのでなんとかなるだろう。
 それに、龍も一緒なのだ。
 子鬼は留守番だが、前回、ついて来ては駄目だと言っていたにもかかわらず、潜り込んだ龍。
 今度は絶対に連れていかないぞと柚子が念を押していたら、どうやったのか、龍を連れてきていいという撫子直筆の手紙を持って帰ってきたのだ。
 これで誰はばかれることなくついていけると、龍は『うはははは~』と大笑いしていたが、子鬼たちの許可は出なかったために、龍は子鬼たちからじとっとした眼差しで見られていた。
 やはり玲夜が作った使役獣と、神に近い生き物である霊獣とでは扱いが違うのかもしれない。
 子鬼はトコトコと柚子のところへやって来て、両手を組んでお願いのポーズをとると、上目遣いで柚子を見る。
「柚子~」
「僕たちも行きたい~」
 ウルウルとした目で見あげられ、柚子はうっと言葉を失う。
 いったい誰だ。子鬼にこんな仕草を教えたのは。
 いや、犯人は捜すまでもない。
 絶対に透子だろう。
 柚子におねだりの仕方を伝授したように、子鬼にも同じことを教えていたのだろう。
 平凡な容姿の柚子と違い、かわいさが限界突破している子鬼の破壊力といったらない。
 同じ仕草でもこうも違うのかと、柚子はなんだか悲しくなってきた。
 とは言え、どれだけ子鬼がかわいさ爆発状態でも、連れていくわけにはいかない。
 花茶会は花嫁のための集まりなのだ。
「だーめ。子鬼ちゃんたちは連れていけないの。ごめんね」
 子鬼はガーンとショックを受けたようにうなだれた。
 そして、いまだ上機嫌に笑っている龍をギッとにらむと、飛びかかった。
「ずるい~」
「ずるいずるい~」
 ふたりはポカポカと龍を叩いている。
『これ、やめぬか!』
「龍だけずるい!」
「僕たちも行きたいのに~」
『柚子、止めてくれ~』
 これ見よがしに喜ぶからだと、子鬼たちに責められる龍を自業自得に思った柚子だが、仕方なく龍をすくいあげる。
「はいはい。子鬼ちゃんたちももうお終いにしてね」
「う~」
「む~」
 頬を膨らませた不機嫌さいっぱいの顔は、なんともかわいらしい。
 柚子は仕方なさそうに小さく笑ってから、子鬼たちを撫でた。
「子鬼ちゃんたちはまろとみるくと大人しく留守番しててね」
 しぶしぶという様子で、子鬼たちは「あーい……」と返事をした。
 ごねてもどうにもならないと理解したらしい。
「使役獣って皆子鬼ちゃんたちみたいな感じなのかな?」
 あやかしが霊力で作る存在だが、なんとも表情豊かだ。
『童子たちは特殊なだけだ。普通の使役獣はあのように強い感情を持っておらぬ。意思もない』
「そうなの?」
『うむ。柚子のところに送ってくる狐のように、主人の言われたことを忠実にこなす道具でしかないからな』
「道具……」
 なんとも違和感のある言葉だったので、自然と柚子の眉間にしわが寄る。
『童子たちは霊獣三匹分の霊力を与えられたゆえに、少々普通の使役獣とは違って個を持ってしまっておる。創造主より柚子を自分の意思で選んだようにな』
 子鬼たちは玲夜に従うことよりも柚子に従うことを選んだ。
 誰かに強制されたわけでもなく、己の意思で決めたのだ。
 それは一般的な使役獣ではありえないこと。
「それはいけないこと?」
『よいのではないか? 童子たちを作った本人がなんとも思っておらぬのだし』
 確かに玲夜は特に気にしていないようだ。
 玲夜ではなく柚子を選んだことに関しても、もともと柚子のために作ったのだからと子鬼たちを咎めることもない。
『本人たちも楽しそうだし、柚子は童子たちが表情豊かの方がよいであろう?』
「うん」
 それは確かに間違いない。
『但し、他の使役獣が童子たちと同じだと思わぬ方がよいぞ。あれらは規格外の存在だ』
「そうなんだ。……分かった」
 ふと、柚子は考える。
「私が使役獣を作ったりするのはできないの?」
『……人には得手不得手というものがあってだな……』
「回りくどい言い方しなくても、無理なら無理って言ってよ」
『無理だな』
 柚子は肩を落とした。
 分かっていたことだが、改めて否定されるとがっくりとしてしまう。