私の声で、ほっとしたのか、そらしていた顔を戻すと、居間の中をきょろきょろ見渡し出した。せっかくなので、ジュースぐらい出してあげようかと、台所に行くと、居間の方から健太君の声があがった。
「ほんとだ! そっくりだね」
私が慌ててグラスに入れたオレンジジュースを持って行くと、健太君は居間の飾り棚の上に飾ってあったアリスの写真に見入っていた。なんとなく置かれたままだった写真立てだったので、うっすらと埃がかぶっていた。私はそこにアリスの写真があったことすら、すっかり忘れていたことに気がついた。
それはカメラ目線でしっかりこちらを見ているアリスの写真だった。アリスは家の中で飼っていたので、写真の中のアリスは家の中にあった誰かのスリッパをくわえ、にこにこ笑っているような表情をしていた。ビーグル犬と柴犬のミックス犬だったせいか、ビーグルの特徴である長いだらんとした耳より、少し上に上がっているせいか、普通のビーグルと比べると短い耳をしていた。それから顔の部分にある白い毛はミッキーマウスのように眉毛のところからちょうど半円が左右対称に広がるようになっていて、白い毛はそのまま顔全体に広がり、お腹の真ん中ぐらいまで白い毛に覆われていた。あとはビーグルの特徴である茶色の毛と黒い毛が全身を覆っていた。アリスとコロは、その耳の特徴といい、ミッキーマウスのような白い毛の生え方が、びっくりするぐらいそっくりだった。
私は庭につながれているコロを改めて眺めた。コロは熱心に庭の土の匂いを嗅いで穴を掘ろうとしていた。

ワンワン、ワンワン
嬉しそうに吠えながら、アリスはうちの親からもらった骨型のガムを庭の中に埋めようとしていた。
「駄目だよ、アリス! そんなところに埋めちゃったらガムが泥だらけになっちゃうよ」
まだ小学三年生だった私はおねえさんづらをして、アリスを叱った。アリスはいったん、掘る足を止め、私の方を見た。黒いつぶらな瞳がこっちをのぞき込んで、不思議そうなきょとんとした顔をした。ガムの他に何かくれるのか、そんな様子で私を見つめていたが、結局何ももらえないと分かると、また穴を掘り出した。
「駄目だってば、アリス!」
一心不乱に穴を掘るアリスと、今まさに穴を掘ろうとしているコロの姿がだぶってきた。なつかしいなあ。ほんとにアリスが戻ってきたような気がする。夢中になって庭の土に鼻を押しつけているコロを見ているうちに、いろんな記憶が蘇ってきた。