夢見る気持ち

平日の午後だというのに、家族連れやら恋人同士で来ている人達が結構たくさんいた。下手をすると動物を見に来ているのではなく、人間を見に来たのではないとか思うぐらいの盛況ぶりだ。その中で、私のようにクロッキー帳を手に、動物達に視線を投げている人も、ちらほらと見えた。
「ほら、ゾウさんだよ」
母親らしき人がゾウを指さし、子供に示している。ゾウは思いのほか大きく、しかしゆったりと優しそうな笑みをたたえている。大きな耳を動かしながら、のさのさと地面を歩いていく。ちょうど飼育員の人がゾウを誘導していて、ゾウのそばを歩いている。踏みつぶされたりしないのだろうかと、一瞬思ってしまったが、見てると飼育員の人とゾウの間には、そんな緊張感などなく、空気のような信頼感があるように見えた。ゾウもゆっくりと一緒になって、のんびりと歩いている。見えない絆が、その空間に漂っていて、私はアリスと自分とのことを思い出した。私が待てといえば、いつまでもお座りして餌を待ち、私の姿が見えないと、探しに来ていたアリス。そこには絶大な信頼、つながりがあった。きっとこのゾウや飼育員の方にも、そんな関係があるのだろう。
私はすぐさま鉛筆でクロッキー帳に描いていた。ゾウの動きは思ったよりも、ゆっくりなので、姿を描き切るのは、それほど大変ではない。でも私が描きたかったのは、ゾウと飼育員さんとの温かい心の交わりだった。
気がつけば、ゾウのそばに寄り添って歩く飼育員の姿を描いていた。ゾウそのものを描けば、もっと違う構図になっていたと思うが、飼育員とゾウの並んだ構図は、それはそれでいいのではないかと思った。