『自主制作で何を描くか……』
大学から家に帰ってからも、私の心は悶々としていた。
居間に座って、思わずため息をつく。ふと見上げると、飾り棚の上のアリスの写真に目が留まる。いつもの写真なのに、なぜか今日は寂しげに見えた。
「何か私に言いたいことがあるの?」
アリスに呼びかけながら、その目をのぞき込む。するとスリッパをくわえていたアリスが、こくりとうなずいたような気がした。私はびっくりして、目をしばたたいた。けれども、写真の中のアリスは、ぴくりともしなかった。
そりゃ、そうよね。これは写真で、アリスはもういないんだもの……。
いないという言葉が、心の中で何かひっかかった。
確かにいないかもしれない……。でも、でも……。
アリスは確かに昔いたのだ。そして生きていた。今も私の中でこっそりと……。
私はじっとアリスの写真を見つめると、はじかれたように自分の部屋へと駆け込んだ。そうしてこの間、美香さんと健太君と一緒に見つけたスケッチブックを開き、アリスのスケッチを食い入るように見つめた。
『描きたい、こんな風にアリスをもう一度描きたい!』
思わずそんなことを思ったけれど、その願いは叶うことのない願いだ。一緒に生きたアリスをもっとしっかり描いてあげたかった。ふと後悔が涙ににじんでいく。もちろん、小学生の私もそれなりにアリスのことを描いてあげている。でも今なぜか描きたいと思うのだ。
脳裏にコロのことが頭をよぎっていく。アリスとコロはよく似ている。コロをアリスだと思って描いてあげればいいのだろうか。いや、そんなはずはない。アリスは、アリスという命だし、コロはコロという命なのだ。命に同じものなどないのだ。だからきっと、命の一瞬を描かなければいけないのだ。一瞬を切り取るように。今を大事に描かなければいけない。
ずっと昔に私が描きたいと思った感情は、きっとこれなのだ。私にとって絵を描きたいという原動力は、命を絵の中に封じ込めたい一心だった。うまく描くことは、二の次なのだ。命あるものをもっと描かなければならない。
でもアリスは、もういない。それでも描きたいと思ったら、思い出をひもとけばいい。一緒に生きた記憶をたどれば、そこにもきっと命はあるはずだから。
大学から家に帰ってからも、私の心は悶々としていた。
居間に座って、思わずため息をつく。ふと見上げると、飾り棚の上のアリスの写真に目が留まる。いつもの写真なのに、なぜか今日は寂しげに見えた。
「何か私に言いたいことがあるの?」
アリスに呼びかけながら、その目をのぞき込む。するとスリッパをくわえていたアリスが、こくりとうなずいたような気がした。私はびっくりして、目をしばたたいた。けれども、写真の中のアリスは、ぴくりともしなかった。
そりゃ、そうよね。これは写真で、アリスはもういないんだもの……。
いないという言葉が、心の中で何かひっかかった。
確かにいないかもしれない……。でも、でも……。
アリスは確かに昔いたのだ。そして生きていた。今も私の中でこっそりと……。
私はじっとアリスの写真を見つめると、はじかれたように自分の部屋へと駆け込んだ。そうしてこの間、美香さんと健太君と一緒に見つけたスケッチブックを開き、アリスのスケッチを食い入るように見つめた。
『描きたい、こんな風にアリスをもう一度描きたい!』
思わずそんなことを思ったけれど、その願いは叶うことのない願いだ。一緒に生きたアリスをもっとしっかり描いてあげたかった。ふと後悔が涙ににじんでいく。もちろん、小学生の私もそれなりにアリスのことを描いてあげている。でも今なぜか描きたいと思うのだ。
脳裏にコロのことが頭をよぎっていく。アリスとコロはよく似ている。コロをアリスだと思って描いてあげればいいのだろうか。いや、そんなはずはない。アリスは、アリスという命だし、コロはコロという命なのだ。命に同じものなどないのだ。だからきっと、命の一瞬を描かなければいけないのだ。一瞬を切り取るように。今を大事に描かなければいけない。
ずっと昔に私が描きたいと思った感情は、きっとこれなのだ。私にとって絵を描きたいという原動力は、命を絵の中に封じ込めたい一心だった。うまく描くことは、二の次なのだ。命あるものをもっと描かなければならない。
でもアリスは、もういない。それでも描きたいと思ったら、思い出をひもとけばいい。一緒に生きた記憶をたどれば、そこにもきっと命はあるはずだから。


