夢見る気持ち

「私の絵はただ、コロを模写しているだけです。一之瀬さんの絵は、模写ではなく、コロの本質、魂を描いてるような気がするんです」
そう言われて私は改めて自分の絵を見つめてみた。それは毛布と戯れているコロだった。嬉しそうに引きずって遊んでいる姿は、昔のアリスが思い出される。私も一緒にアリスと毛布を引きずり、埃まみれになって遊んだ日々がふつふつと蘇ってきた。遊びながら、アリスの魂に触れていたのかもしれない。それが私の絵に表れているのかと思うと、私は美香さんに言った。
「もっとコロと遊んであげてください。私の絵は大したことないですが、もし美香さんがそんな風に感じているなら、きっとその分が足りないのかもしれません」
「そうですか……。そうかもしれませんね、私はただ、目でコロを追っているだけで、本当のコロをまだ知らないのかもしれませんね。アドバイスありがとうございます」
美香さんは、にっこり笑うと手に持っていたスケッチブックと鉛筆を下に置き、さっそくコロの元へと行き、一緒に遊び始めた。
ワンッ。
かまってもらえたのが、嬉しかったのか、コロは一声吠えた。
「よしよし、コロ。おねえちゃんが遊んであげるからね」
コロの瞳を見ながら、そんなことを言っている美香さんがかつての自分のように思えてきた。
私はとっさに描いていた。コロと美香さんの遊ぶ姿を。久々に自由に伸び伸びと自分の絵を描いている実感が湧いてきた。夢中でスケッチしていると、健太君がそばに寄って来て、私の絵を見て叫んだ。
「わっ。一之瀬おねえちゃんの絵、すんごく楽しそうな気がする。いいねえ、この絵」
健太君は一目で気に入ったらしく、私に言った。
「その絵できたら、僕にくれない」
「別にいいけど、私の絵より、美香さんの絵の方がいいんじゃない」
「ううん、僕この絵の方がいい!」
強い口調で言い切る健太君に私は、にっこり微笑んだ。
「ありがとね」
「え? 何が」
不思議そうな顔で健太君が訊き返すと、私は言った。
「ううん、なんでもない。じゃあ、これスケッチ終わったら水彩絵の具で塗ってあげるね」
「ありがとう。一之瀬おねえちゃん」
それから私は言った通りに、水彩絵の具でその絵に着色し、健太君にプレゼントした。
その絵は美香さんとコロがまるで会話しているようにも見える構図だった。あったかい感じがわかるように、暖色系の絵の具で全体をまとめるようにして、美香さんとコロの仲むつまじい様子が手にとるように分かる絵になった。私は久々に満足のいく絵を描いたような気がした。