それから三時間ぐらいだろうか。私と美香さんは、鉛筆を手に取り、スケッチに取り組んだ。最初のうち、私は美香さんの力量に恐れをなして、あまり大胆な構図を取らずにちまちまと描いていた。
けれどもコロがそうはさせてはくれなかった。庭中を走り回ったり、家の庭の柵をかじったり、コロが眠くなってもいいように、いらない毛布を用意していたけれど、その毛布を口にくわえてぶんぶん振り回して、ずるずると引きずって遊び出したりと、予測不可能なことをするコロを見る度に、アリスもそうだった、そうそうこんなこともしたよねと、思い出とともに構図の取り方も羽を伸ばしたように伸びやかになっていった。
一方美香さんのスケッチは、緻密に本物のようにコロの動きをとらえ、コロの遊び心すらもとらえようと、懸命に鉛筆を動かしていた。なめらかな体の動き、つやつやと輝く健康そうな毛並み、コロの楽しそうな表情を瞬時にとらえていく。
『う~ん、さすがにすごいなあ』
そう思ってたまに描くのを止めて、美香さんのスケッチを見たりしていたら、美香さんも美香さんで私の絵が気になるらしく、鉛筆の手を止め、私の絵を眺めていた。あまり美香さんに絵を見られたくないなあと思っていると、美香さんが大きなため息をついた。
私は恐る恐る美香さんの方を見た。今のは私の絵があんまりひどくてがっかりしたため息だったのだろうかと思ったのだ。
すると美香さんは、頭を振りながら私に言った。
「ああ、私は一之瀬さんみたいにうまく描けない。どうしたらそう描けるんですか」
「え?」
私は自分の耳を疑った。どう見ても、美香さんの絵の方が本物のように描けているのに。
「私の絵なんかよりも、美香さんの方が、コロそっくりに描けているじゃないですか」
正直な気持ちを美香さんにぶつけると、彼女はゆっくりと首を振った。
けれどもコロがそうはさせてはくれなかった。庭中を走り回ったり、家の庭の柵をかじったり、コロが眠くなってもいいように、いらない毛布を用意していたけれど、その毛布を口にくわえてぶんぶん振り回して、ずるずると引きずって遊び出したりと、予測不可能なことをするコロを見る度に、アリスもそうだった、そうそうこんなこともしたよねと、思い出とともに構図の取り方も羽を伸ばしたように伸びやかになっていった。
一方美香さんのスケッチは、緻密に本物のようにコロの動きをとらえ、コロの遊び心すらもとらえようと、懸命に鉛筆を動かしていた。なめらかな体の動き、つやつやと輝く健康そうな毛並み、コロの楽しそうな表情を瞬時にとらえていく。
『う~ん、さすがにすごいなあ』
そう思ってたまに描くのを止めて、美香さんのスケッチを見たりしていたら、美香さんも美香さんで私の絵が気になるらしく、鉛筆の手を止め、私の絵を眺めていた。あまり美香さんに絵を見られたくないなあと思っていると、美香さんが大きなため息をついた。
私は恐る恐る美香さんの方を見た。今のは私の絵があんまりひどくてがっかりしたため息だったのだろうかと思ったのだ。
すると美香さんは、頭を振りながら私に言った。
「ああ、私は一之瀬さんみたいにうまく描けない。どうしたらそう描けるんですか」
「え?」
私は自分の耳を疑った。どう見ても、美香さんの絵の方が本物のように描けているのに。
「私の絵なんかよりも、美香さんの方が、コロそっくりに描けているじゃないですか」
正直な気持ちを美香さんにぶつけると、彼女はゆっくりと首を振った。


