夢見る気持ち

それからゴールデンウィークが過ぎた後の日曜日、私と美香さんと健太君は再び私のうちに集まりコロの写生会をすることになった。その日は快晴で、雲一つないいい天気だった。家には私の父と母がいたけれど、事情を話し、家の庭でコロの絵を描くことを許してもらった。
父と母も犬好きだったので、コロが来るのは大歓迎だった。
「我が家で犬の声が聞こえるなんて、久々のことだな」
父はアリスのことを思い出したのか、そんなことを呟いた。
「それにしても、桃子が知り合いを家に呼ぶなんて、高校生以来ね」
母は、なんとなくほっとした口ぶりで私に言った。高校の時は、理恵や成美がよく遊びに来ていたけれど、大学に入ると、二人の友人もその他の交友関係があり、昔のように頻繁に家に来ることもなくなっていた。それもあったけれど私はサークルに入っているわけでもないので、それほど大学の友人もいなかったので人を呼ぶこともなかった。母は私が、大学に入ってから人づき合いが少なくなったことを、ことのほか心配していた。そのせいか、美香さんや健太君が来ることは、母にとっては喜ばしいことだったようだ。
お昼ご飯も食べ終わり、一息ついている午後一時頃に、美香さんと健太君とコロはやって来た。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
私は二人を出迎えると、リードにつながれているコロを庭の囲いの中へと放してやった。庭の囲いはアリスがいた頃と違い穴があいていたので、私が急拵えで板を打ち付け、コロが外へ脱走しないように修理しておいた。
コロはリードから自由になると、くるくるとよく回るコマのように、嬉しそうに辺りをぐるぐる回って駆け出した。
「よかったね、コロ」
美香さんが微笑ましい笑顔で、コロに語りかけると、庭側のガラス戸が開き、うちの父と母が二人に声をかけた。
「いらっしゃい」
「あなたが美香さんね。桃子があなたの絵がとてもうまいと言ってたわよ」
「いえいえ、そんなことありません。私の絵なんてつまらないものです」
美香さんは恐縮した様子で、頭をさげた。
「それにしてもコロちゃんは、うちで飼ってたアリスにそっくりだなあ」
父は父で、健太君にそんな言葉をかけていた。
「うん、そうでしょ、おじさん。僕もそう思うんだ」
健太君は、健太君で得意そうにそう言った。美香さん、健太君、うちの父母ともに和やかな雰囲気なので、内心ほっとしながら、私はみんなに告げた。
「日が陰るのは、早いから今のうちに写生しましょう」
「それもそうですね」
美香さんは、にこにこした表情を一変させて、熱心な瞳をコロへと向けた。何も考えていなそうなコロは庭の中を、くんくんかぎ回り、不思議そうな顔をしていた。この臭いは前にもかいだぞと、言わんばかりに犬なりに探索をしているその様子に私と美香さんは、顔を見合わせくすりと笑った。