「私ね、ゴッホのひまわりが一番好きなんだけど。なんていうか、力強さもあるけど、色使いに迷いがないような気がするんだ。他の作品には、どこかためらいがあるような気がするんだけど、この作品には全然迷いがなくて、全精力を傾けているって思うんだ。それってすごいことだよね。私もできればそうなりたいんだけど……」
いつも明るくてさっぱりしている性格の小林さんが、真剣な調子で言うのを聞いて、私は思わずこう訊いていた。
「小林さんでも、迷うことあるの?」
それを聞いた小林さんは、笑って答えた。
「そりゃ、そうだよ。私はいつも迷ってばかりだよ。この方向の絵でいいのかとか、色使いはこれでいいのかと迷ってばかりで、どこかで全力投球できない自分がいつもいるもの」
私は内心びっくりした。小林さんほどの画力があれば、胸を張って、絵に打ち込めてると思っていた。それなのにそうじゃないと彼女は言っている。彼女ですら、迷ってしまうのだもの。まして画力が足りない私なら、なおさら迷ってしまってもおかしくない。私はどこか遠い存在に感じていた彼女に急に親しみを覚えた。小林さんだって、私と同じまだ大学生。それにあのゴッホだって、絵筆を取り出したのは、二十代の後半で、この黄色のひまわりにたどり着くまでかなり苦悩している。悩んでいいし、迷っていいんだと、心のどこかでほっとした。そのあと私たちは、美術館を出ると、またゼミでねと言って別れた。
いつも明るくてさっぱりしている性格の小林さんが、真剣な調子で言うのを聞いて、私は思わずこう訊いていた。
「小林さんでも、迷うことあるの?」
それを聞いた小林さんは、笑って答えた。
「そりゃ、そうだよ。私はいつも迷ってばかりだよ。この方向の絵でいいのかとか、色使いはこれでいいのかと迷ってばかりで、どこかで全力投球できない自分がいつもいるもの」
私は内心びっくりした。小林さんほどの画力があれば、胸を張って、絵に打ち込めてると思っていた。それなのにそうじゃないと彼女は言っている。彼女ですら、迷ってしまうのだもの。まして画力が足りない私なら、なおさら迷ってしまってもおかしくない。私はどこか遠い存在に感じていた彼女に急に親しみを覚えた。小林さんだって、私と同じまだ大学生。それにあのゴッホだって、絵筆を取り出したのは、二十代の後半で、この黄色のひまわりにたどり着くまでかなり苦悩している。悩んでいいし、迷っていいんだと、心のどこかでほっとした。そのあと私たちは、美術館を出ると、またゼミでねと言って別れた。


