夢見る気持ち

私は思わず理恵のことを考えた。彼氏ができたと言っていたけれども、理恵もこんな風に彼氏とつきあっているのだろうか。そもそもどんなことをしゃべっているのだろう。今まで誰ともつきあったことのない私にしてみれば、なんだかとても不思議な気がした。そうこうしているうちに、私は順路をどんどん進んで、最後の順路に当たる印象派の展示室に入った。
人だかりができていたが、並んでいた前の人が動いて、私は絵の見やすい位置へと移動できた。その絵はちょうどルノワールの風景画で、岸辺の脇にあるこんもりとした森が、色鮮やかに優雅に描かれていた。木々の葉というと、普通は緑色を基調とするけれど、ルノワールの絵には、ピンクやオレンジ、青など、明るい違う色が登場している。戸外の美しい光を表現するために、その当時斬新な発想で巷を驚かした印象派の人々の一人であるルノワールの技法は、私の心に新しい風を感じさせた。その人自体が亡くなって百年近く経っていても、残された絵画だけが新鮮さを保っている。そんな新しさを常に感じさせる人こそ、画家と言えるに違いない。そう考えると、自分はどうしたって画家にはなれないと感じてしまう。なのに、なぜ画家になりたいと思ってしまうのだろうか。そこまで考えた時前の人だかりが、ぱっと消えた。ルノワールの絵を見終わった一団がちょうど立ち去ったのだ。
残ったのは私と一人の女性のみ。その女性は肩までのストレートヘアに、丸いふわりとした白い袖のブラウス、黄緑のパンツに白のサンダルを履いていた。年齢は私と同じぐらいだろうか。彼女は熱心にルノワールの絵をのぞき込んでいた。右側から観たら、次は左側から、今度は下から見つめ直したり、かなり熱心に鑑賞していた。私も絵の近くに、もっと移動し、筆のタッチがどんなものか、のぞきこもうとした。その時、その彼女と目が合った。私は驚いた。もちろん、向こうも驚いた。
「一之瀬さん?」
「小林さん?」
私達二人はついうっかり大きな声を出してしまった。