夢見る気持ち

アリスが亡くなった原因は肺炎だった。最初は鼻水をたらしていたので、単なる風邪だろうと思っていた。でもそのうちアリスが熱そうに舌を出して、ごろんと横になって苦しそうに、はあはあし出すと、様子が変だと、母と二人でアリスを動物病院へ連れて行った。お医者さんは、肺炎だと診断し、注射を打ってくれた。あとはアリス自身の体力にかかっていると言われ、肺炎が一発で治るような薬はないことを、その時初めて知った。
 家に連れて帰ってきても、アリスの容態は良くならなかった。呼吸が荒く、ぐったりとしているアリスの周りを、私はどうしたものかとおろおろしていた。でもきっと良くなる。大丈夫だ。この間だってアリスは風邪を引いていたけど、すぐ元気になった。そう思って私は、学校の宿題のノートを取りに自分の部屋へと向かった。アリスのことが気になって、宿題どころではなかったけれど、だからといってやらない訳にもいかないだろうと思ったのだ。私が二階の自分の部屋に行ってるうちに、下から母の声が聞こえてきた。
「桃子! 桃子!」
大きな声で呼ぶ母の声に、私はびくりとした。慌てて下の部屋に戻ると、母が言った。
「今、アリスが亡くなったよ」
え?と思った。だってさっきまで、辛そうとはいえ、横になってお腹が上下に動いていたはずだよ。はあはあ言いながも、アリスはしっかりと息をしていたのに。それなのになぜ。
 私は半信半疑ながらも、アリスのそばへと寄ってみると、アリスの目はかっと見開いたままで、まばたきひとつせず固まっていた。母がその目を閉じさせようとするが、うまくいかない。アリスの身体を触ってみると、まだ温かい。その温かさを感じていると、まだ生きている。そう思いたかった。けれども、見開かれた目が、それはないことを物語っていた。鼻を鳴らすことも、ぴくりと動くことも、もうないのだ。それを知った時、私の目には涙が溢れた。
悔しかった。ついさっきまでは生きていたのに。私がちょっといなくなった隙に、アリスは逝ってしまったのだ。看取ったのは母。私ではない。いつも一緒だと思っていた私は、一番最期の一番大事な時に一緒にいてあげれなかったことが、悔しくて悔しくて、そして悲しくてひとしきり泣いた。