夢見る気持ち

アリスと私と理恵は、いつも一緒。本当にそんな感じだった。でもある日、そうじゃないことが起きた。理恵と一緒に私の部屋で宿題をしていると、ノートを広げた低めのテーブルに、アリスが頭をのせてきたのだ。
「アリス、頭が邪魔」 
 ちょうどアリスの頭が私のノートにかかってきたので、文句を言うと、アリスはふてくされた顔をした。おもしろくないぞ、おもしろくないぞ、そんな声が聞こえてきそうだった。私はしかたなく、アリスの頭をどけて、宿題にとりかかった。しばらくは集中して宿題をしていたけれど、アリスが、あまりにも静かすぎるので、何をしているのだろうと気になって、目を向けると、アリスが学校から借りてきた文庫本を、かじっているのだ。驚いた私は、急いでアリスから本を取り上げた。見ると表紙と前のページの端っこにアリスの歯形がくっきりと残っていて、ページが、かじりとられていた。私は腹が立って、アリスをひっぱたいた。とっさに理恵がアリスをかばった。
「駄目だよ、アリスを叩いちゃ」
「理恵ちゃん、どいてよ。だってアリスがいけないんだもん」
「でも叩いちゃ、駄目だよ。アリスがかわいそう」
 突然ぶたれたアリスは、驚いた顔をしていた。自分が何をしたのかさっぱりわかっていなそうな雰囲気だった。それがよけい腹が立って、アリスのバカと言って、思い切り叩きたくなったのだ。
「桃子ちゃんもいけないと思うよ。本をそんなところに置いてるんだもん」
「そんなあ……。だって本をかじるだなんて思わなかったんだもん」
 私はいけないと言われて、むくれてしまった。だって今までこんなことなかったんだもん。
「それにこの本、学校から借りてきた本だもん。先生に怒られちゃうよ」
 私が怒った口調で言いながらも、涙がじわりと目の辺りに出てくると、理恵もまずいと思ったのか、私を慰めた。
「私も一緒に先生に怒られてあげるよ。一緒に言いに行こうよ」
 理恵に、そう言われても、アリスが悪いのに、なんで、なんでという気持ちがこみ上げてきて、私は素直になれなかった。
「ともかくアリスをぶっちゃ駄目だよ、桃子ちゃん」
 結局宿題をしている状況じゃなくなり、理恵は勉強道具を持って、うちを後にした。
 私はアリスをじっと睨みつけた。アリスのしたことを考えると、やっぱり、叩きたくなったが、理恵が言った言葉が歯止めになった。
「アリスなんて、大嫌い!」
 私が大声を出すと、アリスはきょとんとした顔をした。いったいなんなんですか、さっきからと言いたそうな様子のアリスに、私はくどくどと言った。
「いい、アリス。これは学校で借りてきた本なの。こういったものをかじっては駄目なんだよ。絶対駄目だからね!」
 私は怒っているんだよということを分からせるために、きつめの口調でいうと、アリスもなんとなく分かったのか、目を伏せて、しょぼんとした悲しそうな仕草を見せた。もう、しょうがないなと思った私だったが、図書室の先生に言わないといけないことを考えると、とても憂鬱になった。