夢見る気持ち

バーで飲んで、家に帰り着くと、もう夜の十二時過ぎだった。鍵を使って、家の中に入ると、母も父も先に寝てしまったのか、居間には電気がついていなくて、暗かった。手探りで電灯のスイッチを入れると、部屋の中は、一瞬にしてぱっと明るくなった。それとともに壁にかかっている時計のカチカチいってる音がやたら耳についた。真夜中に一人、寒い空気がひんやりと支配してくるような気がした。心寂しい気持ちを振り払うように、台所に行き、冷蔵庫の中からオレンジジュースを取り出すと、コップ一杯飲み干した。それから居間のソファに座ると、そばにあったクッションを手でつかんで顔を埋めた。
とりあえず、理恵と成美は元気そうで、よかったなと思った。上機嫌で帰って行った二人の後ろ姿は、今を楽しんでいるように見えた。私はどうなんだろう。楽しんでいるのだろうか。そんなことを思いながら、ふと目をあげると、飾り棚の上に置いてあるアリスの写真と目があった。
何も変わらないのは、このアリスの写真ぐらいだろうか……。もうアリスが亡くなってから九年が経つ。私も変われば、理恵だって変わる。成美と理恵と私は同じ高校の同級生だけれども、理恵とは、その前からのつき合いだ。幼稚園の頃からのつき合いで、当然のようにアリスのことも知っている。理恵も犬を飼いたいと思っていたけれども、ご両親があまり動物好きではなかったので、飼う機会に恵まれなかったのだ。だから私が犬を飼い出したのを知ると、羨ましそうにアリスを見ていた。
私達はアリスと一緒になってよく遊んだ。うちの家の庭で遊んだり、近くの公園で遊んだり、川まで行って、水浴びさせたり、アリスの行くところには、必ず理恵もついて来た。理恵は私の親友でもあり、アリスの親友でもあった。アリスもそれが分かっているのか、理恵にもよくなついていた。理恵が自分の家に帰ろうとすると、寂しそうにまとわりついた。
「駄目だよ、アリス」
 私が注意すると、アリスはためらうような仕草をして、しっぽを弱く振る。そうして、くうっと鳴くと、理恵もまた寂しそうな表情を浮かべた。
「じゃあね、アリス。またね」
そう言いながら理恵はアリスの頭をなでて帰って行った。