夢見る気持ち

「どんな人?」
「会社の先輩なんだ」
「社内恋愛ってやつね。へえ~、でも理恵が恋愛に興味を持っているとは知らなかったわ」
「失礼ね。私だって恋ぐらいするよ」
そんな理恵の発言にただただ目を丸くしていると、理恵は、はにかみながら更にこんなことを言った。
「ここのバーも彼に教えてもらったの」
「何、二人でバーなんか来てるの?! ちょっといいわね、ねえ、桃子」
一瞬目の前に、その彼氏と理恵が二人並んでカウンターバーに座っている様子がふっと浮かんだ。単なる学生のカップルとは違った大人の雰囲気の二人連れ、その一人が理恵なのだと思うと、もう理恵は私とは全く違う世界の人間なのだとその時悟った。
そりゃあ、話だって、だんだんずれてくるよと私は思った。そうしてどんどん理恵が遠くにいってしまうのを、感じずにはいられなかった。寂しいような切ないような……。
そうなってくると、私の世界があまりに狭くてつまらないものに思えてきた。それが証拠に私がさっき話したコロのことや、美香さんのことなど、なんの話題にもならなかった。だからといって、理恵や成美が友達でなくなるはずがないのも分かってはいる。それでもどこかで、徐々に壁ができていくのを知らないわけにはいかなかった。
これが大人になるということなのだろうか。そうなると私はまだ大人になっていないというわけだ。今私はこっち側にいるけど、大人になった時私も今の理恵みたいになるのだろうか。きっとそっち側になったら、理恵みたいに、こっち側のことなど気にしなくなるのかもしれない。過去のことはもうすっかり忘れてしまったみたいに、別人になるのかもしれない。